「店は客のためにある」
商業界創立者、倉本長治が唱えた商業の基本精神です。戦後、社会が困難する中、商業も利己的な行いにあふれました。そんなときに「店は客のためにある」と訴え続けた倉本はさぞかし孤独だったでしょう。
しかし、彼は主張を変えることなく唱え続け、やがて彼の周りには多くの賛同者が集い、実践に励む商人たちが心を通わせました。そこには、その後に商業の近代化に貢献した商人、地域の暮らしを守り続けた商人の多くがいました。
新著『店は客のためにあり店員とともに栄え店主とともに滅びる』で解説文を寄せてくれたファーストリテイリングの柳井正さんも、そんな商人の一人です。「私の座右の銘はこれ以外ない」と、彼はお客様視点に立って、自らの商いを革新し続けています。
「店は客のためにある」とは、商人の普遍的かつ根本的な使命です。だから現在、多くの企業が同じような理念を掲げています。洋の東西を問いません。
「お客様に価値ある買物の機会を提供し、より豊かな生活の実現に寄与する」とは、世界最大の企業であり、世界最高の売上高を誇るウォルマートの経営理念。スローガンは「Save Money. Live Better(お金を使わず良い生活)」。これがウォルマートの「店は客のためにある」の具体策です。
「地球上で最もお客様を大切にする企業」とは、米国最大手のオンラインショッピングサイトを運営する多国籍テクノロジー企業、アマゾンの経営理念。その具体策の一つが、地球上で最も豊富な品揃えの追求です。数億種類と言われる品揃えは日々伸び続けています。
このように、それぞれの企業が顧客第一主義を掲げ、その実践に努めています。一方、口先ばかりで、実質が伴わないお題目を唱えるだけに終始している店や企業も少なくありません。あのビッグモーターですら、「常にお客様のニーズに合ったクオリティの高い商品・サービス・情報を提供する」という理念を掲げています。
あなたはどちらでしょうか?
また、商品を安く仕入れて安く売るだけが、便利さを追求するだけが、豊富に品揃えするだけが、お客様にとって有利な商いではありません。ややもすると、それらは売り手の都合を優先させているだけかもしれません。
たとえば特売セールで値引き販売することは、お客様に有利な商いを毎日続けることとはかけ離れた営みです。売り手都合による一時的な安さにすぎず、定価で購入したお客様の利益を損なうものです。そこに買い手の満足はありません。そんな不誠実な商いを、私たちはこれまで無自覚に行ってきました。
お客様に有利な商いを毎日続けるために不可欠なのが「本日開店」の志です。創業の心構えと努力を保てば、店や企業というものは必ず利益が上がるものです。
商いの道に終わりはありません。だからこそ、思いを日々新たにしてお客様に有利な商いを毎日続けていきましょう。そこには買う者と売る者双方の笑顔があるからです。