笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

明日をよくする営み

昨日のブログでは所得格差を示す「ジニ係数」を取り上げ、所得の二極化が進んでいることを記し、文章の最後に、商人として「何ができるのか」と問いました。今日の一冊は、それを考えるためにもおすすめしたいのです。

 

原宏一さんの小説『料理人の光』の主人公、ヤッさんは仲買人、料理人から信頼を寄せられる食のコーディネーター。しかし、報酬は食材の味見やまかない飯だけ。実は彼、公園や神社の境内をねぐらとするホームレスなのです。

 

とはいっても、衣類の洗濯、身なりに気を配り、「世間様」に迷惑をかけない矜持ある宿無し生活を貫いています。そして、ひょんなことから出会う、挫折しかけている若者の面倒を見て、その成長を後押しする人情家です。本書は、そんなヤッさん活躍する物語の第4弾。

 

何をやっても中途半端な青年・ショータが今回の弟子。さしたる覚悟もなく料理人を志してイタリアに渡ったものの、夢破れて帰国。なけなしの貯金をはたいて支援してくれていた母親のもとにも帰れず、東京・足立市場で盗みに手を染めていたところをヤッさんに拾われます。

 

ヤッさんの保護観察処分となって、料理人として大切なものを探し求めて再出発。多くの気骨ある料理人と触れ合いながら、それを見つけ再生していくという成長物語です。ヤッさんはショータにこう言いました。

 

「料理人には生きる喜びを感じてもらう喜びがあると思うんだよな。食欲ってもんは人間が生きていく力の源泉だが、肉体的な満腹のためだけなら家畜の餌みてえに食材をそのまま食えばいい話だ。なのに、なぜ人間は料理をするのかといえば、食材をそのまま食う以上の喜びがあるからだ。

 

つまり料理人には、明日も頑張って生きよう、という喜びを感じてもらう使命があるわけで、それを忘れちまったら食材に利益を上乗せする作業員に成り下がっちまう。そんなんでおめえは納得できるか? そんな仕事に生涯を捧げられるか?」

 

料理人と同じように、商人にも当てはまることだと思います。商いとは今日だけのものではなく、未来を良くするもの。「ああ、明日も頑張ろう」とお客様に思ってもらうべき営みなのです。

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笹井清範

笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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