1位 NTT
2位 日本興業銀行
3位 住友銀行
4位 富士銀行
5位 第一勧業銀行
7位 三菱銀行
9位 東京電力
バブル経済真っ盛りの1989年は、日本企業が世界時価総額ランキングの上位10社のうち7社を独占、ベスト50にも32社がランクインする圧倒的繁栄を誇った年でした。しかし、その中身を見ると、通信や電力という半官半民のインフラ産業と金融機関のみで、そこに新しい革新を生みだすクリエイティビティは見られません。
バブル崩壊後、銀行は生き残りのために合従連衡を繰り返し、いくつかは消滅し、いくつかは名を変えて生き残りました。そして30年後の2018年、世界時価総額ランキング上位50社にいるのは35位のトヨタ自動車のみ。平成の30年間、日本企業は何をしていたのかと思わざるを得ません。
「誠」の店、「品」格ある経営者
話題を1989年に戻しましょう。この年、台湾に一つの書店が産声をあげました。以来15年間にわたって、その企業は赤字を出し続けながらも、創業者がその志を、利潤をあげやすいように変えることはありませんでした。
その企業とは「誠品書店」、創業者とは呉清友。2004年には「アジアで最もクールな書店の一つ」(TIME誌アジア版)、2014年には「世界で最もクールな書店の一つ」(米CNNトラベル)と呼ばれ、その後は品揃えの幅を広げ、総合ライフスタイル型業態「誠品生活」として中華圏へ進出、そして2019年9月には日本に初出店を果たしています。
では、創業者が持ち続けた志とは何なのでしょうか。呉の生涯をまとめた『誠品時光』(副題「誠品と創業者呉清友の物語」)にその答えを求めてみましょう。94ページ「哲学的利益VS経済的利潤」にはこうあります。
企業の利潤より顧客の利益
〈たとえ経営的に最も苦しい時期にあっても、呉清友は、最終的に人、人生そして読書に対して強い信念を持ち、それを実体のあるビジネスの世界に落とし込み、誠品グループが実践することの価値や思想形成への努力を優先させることにこだわった。それは、まず読者にとっての益(ベネフィット)がなければ、収益(プロフィット)を語る資格はないだろうという「益」に対する考え方によるものである〉
〈客の心や感じ方を重んじれば、提供するサービスが客にとってどんな益があるかを考えるようになる。すると、書店は単なる売買のための商業的空間ではなくなり、読者がその心持ちによって自由に本を読み、心が休まる場所となることができる。それは、管理、社会責任、知的ワーカーについて論じた現代管理学の父ピーター・ドラッカーが以前、「ケインズが興味を持ったのは商品行動だが、私が興味を持っているのは人間の行動である。」と言ったことと同じだ〉
このように誠品で重視しているのは、企業にとっての短期的な利潤(プロフィット)ではなく、顧客にとっての長期的な利益(ベネフィット)なのです。
これは、商業界創立者、倉本長治が生涯をかけて唱えた「店は客のためにある」に通じるものであり、倉本はその実践方法として「損得より先に善悪を考えよ」(商売十訓)と説いたのでした。
利他こそ永続経営の根幹
〈どのような産業で会社経営をするにしても、よき経営者は、事業の根幹が社会の有益性の上に構築されるものであり、企業の存在が他者にベネフィット(利益)のあるものでなければ、長く存続させられないことを知っている。このため、企業が語る「利」とは、哲学的なレベルでの「他者への利」であり、経済的なプロフィット(利潤)だけで語ることはできない。もしどちらか一つだけを優先させるのであれば、まずは「他者の利」、つまりまず社会に利することを考えなければ、企業は心安らかに利潤を得ることはできないのである〉
「店は客のためにある」と倉本長治が遺した言葉には、続きがあります。私は、呉清友の揺るぎなき精神が誠品書店をここまで成長させたのだと思っています。
その続きとは「店員とともに栄え、店主とともに滅びる」。つまり、己の利潤よりも他者の利益を重んじる人(店員)がいてこそ店は栄えるのです。そして、店主が創業の志を失ったとき、店はあっけなく滅びるのです。
冒頭に紹介した誠品書店創業時の世界時価総額ランキングを思い出してください。上位を独占していた日本企業はその後どうなったのか。そこに私は、他者の利益をないがしろにして自己の利潤を追い求めて衰退した企業のなれの果てを見るのです。「驕れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし」(平家物語)の一文を思い出します。