ファーストリテイリングの柳井正さんの著『経営者になるためのノート』を初めて読んだのはもう8年も前のことです。先ごろあらためて読み直してみましたが、そのメッセージはまったく古びることなく、否、今だからこそ読むべき一冊といえるものです。
その第二章「儲ける力 経営者は商売人であれ」のはじめに、「お客様を喜ばせたいと腹の底から思う」という項目があります。そこで柳井さんは商売の原点として「お客様のために」という言葉を挙げています。さらに、それを表面的に理解した程度で終わらせないように警告し、「そういう人に限って、読み終わって、仕事に戻った瞬間、この言葉を忘れ、自己都合の商売をしているもの」と指摘しています。単なるスローガンではなく、「商売に関するありとあらゆることを、これに徹するという意味」と書いています。
そんな柳井さんの社長室に掲げられているのが「店は客のためにあり、店員とともに栄える」と書かれた額。商業界創立者、倉本長治の遺した不朽の商人哲学です。
また、柳井さんは同書に「お客様の笑顔のために大切な三つのこと」を挙げています。
1)お客様をビックリさせようと思わなくてはいけない
2)お客様の声は重要だが、その一枚上手をいこうとする思考習慣を持つ
3)提供者である自分たちが、本当にいいと思うもの、本当にいいお店だと思うものを作る
この三つの要件を考えるとき、「お客様のために」という言葉の重みを感じます。だからこそ倉本は「店は客のためにある」という一言をもっとも大切なメッセージとしたのだと改めて思います。
さらに、序章「経営者とは」では、経営とは「実行」であり、経営者に必要な能力として次の4つを挙げ、経営者は4つの顔を持つ必要があると説いています。
1.変革する力(イノベーター)
変革する力を持たない企業は顧客を創造できない
2.儲ける力(商売人)
変革をお金に変えていく力がなければ、誰も幸せにすることはできない
3.チームを作る力(リーダー)
一人でできることはたかが知れているから、チームを作れなければ大きな成果は挙げられない
4.理想を追求する力(使命感に生きるもの)
企業の最終目的は自らの存在意義である「使命」の実現であり、上記の3つの力は使命実現の手段
使命、それは理想を追求する力。それこそが経営者に最も必要なもの。それなくして経営は成立しないと記されています。
倉本長治は「理想」についてこういう言葉を遺しています。
理想を持ちたまえ。
これこそ手ごたえのある
立派な仕事だと信じ、
高い希望を掲げよう。
それが自他の善に通じ、
幸福につながるからである。
自他を幸せにする経営は「理想」から始まる。そのことを教えてくれる一冊です。
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