笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

「世のため人のため、ってよく言うじゃないですか。でも、ボクあれは正しくは、人のため世のため、だと思うんですよ」

 

年下のある友人が、あるとき私に言ったこの言葉が記憶から離れません。まず身近な人のために己を尽くしてこそ、それが徐々に広がりを持ち、ひいては世のためになるのだと、彼は自身の体験を交えつつ話してくれたことがありました。

 

たった一人のためのスープ

もちろん、私もそう思います。先日も、東京のある繁華街にある小さな店で、一杯のスープを飲みながら、年下の友人のこと、身近にいる大切な人たちのことを思い出していました。

 

その店は1999年に創業した、食べるスープをコンセプトにしたスープ専門店「Soup Stock Tokyo」。今では70店舗を数え、女性が独りでも気軽にゆったりと寛いで食事を楽しめるファストフード店として人気を得ています。チェーン店でありながら、店長をはじめとするそれぞれの店の人がその人の個性を生かしながらもてなしてくれる点も同店らしさの一つでしょう。

 

運営会社、スマイルズのホームページには、「ひとりの女性の『ふーふー』から始まりました。」で始まるこんな一文があります。

 

「(前略)当時女性がひとりで気軽に入れるファストフードはどこにもありませんでした。安心、安全でおいしい食事がゆっくりと食べられて、働く女性が自分の『居場所』として共感できる場所が必要でした。カウンターでひとり、スープをすすっている女性が思い浮かんだことをきっかけにSoup Stock Tokyoはスタートしました。(後略)」

 

同店の商品の最も大切な特徴は「無添加」。「食べるスープ」をコンセプトに、うまみ調味料や保存料わ使わずに手間とコストをかけ、素材の旨みを活かしたスープの提供に努めています。

 

そのメニュー開発の試行錯誤については創業者、遠山正道さんの著作『スープでいきます』に詳しく綴られていますが、本書にはこんな一文があります。まさに「世のため人のため」ではなく、「人のために世のため」が同店の柱となっていることがわかります。

 

「スープは無添加でいこうと、はなから決めていました。というのも、私のひとり娘がアトピーで大変だったからです。生まれて直ぐに顔や身体の所々が赤い湿疹で覆われ、それを掻きむしって血が滲んでいました。娘は痒いとか、痛いとかの言葉は持っていませんでしたが、全身で泣いてそれを伝えようとしていました。(中略)ですから、『無添加のスープ』のいうのは、私たちにとってごく自然な入り口でした」(45ページ)

 

娘が安心して、かつ安全に食べられるスープをつくりたい--創業者の身近な人のためという思いがSoup Stock Tokyoの出発点にあることがわかります。だからこそ頑張りきれる。そして、その営みが世のためになると確信しているからこそ続けられるのです。

 

ペルソナとは店そのもの

 

同社には、もう一人の「たった一人」の存在があります。その人の名は、秋野つゆさんと言います。

 

「メニューをはじめ、店舗イメージやそのほかあらゆることを創り上げていくには、チーム全員がスープストックのコンセプト・イメージを共有する必要があります。(中略)『感動』を共有したい。感度は、味はもちろん、インテリアやグラフィックなどにも幅広く関連していきます。そこで私は、一人の女性の人物像を描きました。『秋野つゆ』です。」(55ページ)

 

いわゆる「ペルソナ」であり、商品・サービスを利用する顧客の中で最も重要な人物モデルのことをいいます。同店では、このペルソナが「店」というキャラクターと一致しています。それが秋野つゆさんなのです。

 

メニューは、彼女がつくる、あるいは好むメニュー。インテリアは、彼女の性格をそのまま現したようなもの。お客様は、彼女の友だち、彼女を慕って集まってくる人々。つまり、スープストック東京の目指すものは、彼女の目指すもの、理想そのものというわけです。

 

ご自身の娘さん、そして架空の女性・秋野つゆさん、こうした「たった一人」を大切にすることが同社の繁盛を支えています。顧客を小さく、狭くなっても、濃く、深くまで絞り込んでいるからこそ、「あ、それって私にも当てはまる」と広がるのです。

 

あなたにとって大切な一人は誰ですか? その人を大切にすることが、世のためにつながる商いとなることほど、やりがいのある仕事はありません。

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笹井清範

笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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