笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

商品をどのように揃えるか(専門用語でいうとマーチャンダイジング)という観点から見ると、小売業は大きく二つに分けられます。みずから商品を作る製造小売業と、多くの商品の中から品揃えの方針に従い調達する仕入れ小売業です。

 

いま、仕入れ小売業はいずこも厳しさと難しさに直面しています。より安く、もしくはより便利に買うならば、インターネット通販が最適な時代において、他でも手に入れられる商品を、なぜあなたの店で買う理由があるのでしょうか?

 

その問いに明確に答えられなければ、そこに品揃えの哲学がなければ、お客さんはあなたの店で買うはずもありません。今ではあらゆる商品を扱うアマゾンが、その事業を何からスタートさせたかはご存知ですね。そう、本、書籍、BOOKです。

 

ご承知のように、低粗利、定価販売、ほぼすべての商品が仕入れという特徴を持つ書店が、その店数を減らしています。地域に書店が一軒もない市町村はどのくらいあるのでしょうか。出版取次トーハンによると、香川県を除く全国46都道府県で420の自治体・行政区に登っています。全国の自治体・行政区は1896ですから、書店を持たない割合はなんと2割強に上るのです。

 

とりわけ、資本力、売場規模でスケールメリットを持たない“まちの本屋”厳しさは並大抵ではありません。仕入れ小売業の中でも絶滅危惧種の一つといっていいでしょう。

 

しかし、だからこそ、そこで取り組まれる商いには、研ぎ澄まされた知恵があるはず――かつて岩手・盛岡のさわや書店フェザン店で店長を務めていた田口幹人さんによる『まちの本屋』はその証拠の一つです。

 

著者は書店での修業の後、実家の書店を継ぎ、心ならずも廃業を経験。しかし、本の世界を離れることなく、勤め人としてさわや書店に入り、これまでに学び、教えられてきたことを実践する中でつかんだ大切なことが書かれています。

 

 

多くの読みどころと共感を含んだ一冊のうちでも、ぼくがいま皆さんに伝えたいのは、次のくだりです。田口さん、少し長い引用をお許しください。

 

〈僕が意識したのが、本屋を「耕す」ことでした。(中略)一つは、お客さまとのコミュニケーション。積極的にお客さまと本をめぐる会話をして、お客さまとの関係を耕していく。そうすることで、信頼関係が深まり、僕たちの提案も聞いてもらえるようになる。本が詰め込まれた棚も、常に手を加えていくことが「耕す」ことになります。

 

みんな「当たり」が欲しいのです。「これは売れる」というものが欲しい。しかし、大事なことは、すでに売れている本を仕入れることではなくて、売れる本を自分たちでどうやってつくっていくか、ということです。その店の中できちんとプロセスを踏んでいかないと、実は本当は売れていかないのです。

 

そういうことを、一つ一つやっていくことが、最大限の売り上げを生む。いざ平積みにして売ろうというときに、耕してきたお客さまがいて、耕して来た棚を知っているお客さまがいるから売れて行く。耕されていないところに、突然ポンと置かれただけの本に、お客さまは反応できません。普段から耕されていることが大切なのです〉(本文41ページ)

 

いかがでしょうか? 文中の「本屋」をあなたの店に、「本」をあなたが扱う商品に置き換えてみてください。そのとき、お客さまと売場は耕されているでしょうか?地域に密着して仕入れ商品を商う人には、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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