絵画展、演奏会、朗読会、ワークショップ、そして落語公演——。
途切れなく開かれる催しを開くのは、どこの画廊かイベントホールかと思いきや、実はまちの小さなパン屋さん。渋谷駅から徒歩5分ほど、青山通りを2ブロックほど内側に入ったところにある「パン・オ・スリール(Pain au sourire)」は、フランス語で「笑顔入りパン」を屋号とする店です。
白神山地の腐葉土から発見された「白神こだま酵母」などいくつかの天然酵母をパンの特性に合わせて使い分け、国産小麦を用いて、手間をかけ丁寧に手づくりするのが同店の商品哲学。「できるだけ生産者に近いもの、育てた人の顔が見えるような素材選びを心掛けている」といいます。
この地で店を構えて7年あまり、売場とカフェスペースの一角にあるギャラリーで開店当初から展示や催しが続けられています。「自分や家族がおいしいと思えるパン、飽きずに毎日食べたいと思えるパンを、お客様にお届けするのが当店の役割。そんな日常の場所で、気軽に絵画や催しを楽しんでいただきたいと始めました」と、パン職人である夫と共に店を切り盛りする須藤美智子さんは言います。
渋谷での用事を済ませて足を伸ばすと、行われていたのが2017年夏から定期的に開催される「キットパス皆画展」。誰も一人ひとりが一生懸命に働くことができ、働くことを通じて幸せを感じられる「皆働社会」の実現を事業理念とする日本理化学工業の人気商品「キットパス」を用いた絵画展です。
主宰する日本理化学工業は、全社員の70%以上が知的障がいのある社員であり、まず今ある能力で仕事ができるように、そしてより能力を高めていけるように、作業方法の工夫・改善を行ない、環境づくりに取り組む会社として知られています。皆働社会の提唱者、故・大山泰弘会長についてはこちらのブログをご覧ください。
パン・オ・スリール106回目のギャラリーとなるキットパス皆画展には、同じサイズのキャンバスに、画家、絵本作家、イラストレーター、障がいのあるアーティスト、キットパスアートインストラクター、日本理化学工業の社員さんなどさまざまな作家60名によって、キットパスで描かれた作品が壁一面に展示されていました。とても同じ画材で描いたとは見えないほど、それぞれの作品の個性とタッチは多様。画用紙はもちろんガラスなどにも描け、水で溶かせば絵具にもなるキットパスの多様性とシンクロするようです。
「さまざまな方々のご協力で、多くのお客様が楽しみしてくださるようになり、いろいろなご縁がつながって、ギャラリーを途切れなく続けてこられました。うちはあくまでもパン屋ですから、こうして来店くださる方々に喜んでいただけるパンを食べていただくこと、それが私たちの幸せです。だから、いつも、そしてもっとおいしいパンをつくっていきたいですね」と須藤さん。
人気商品をいくつか購入、今朝、そのおいしさを確認したところです。噛むほどに素材の確かさとハーモニーを感じさせ、いつもあわただしい朝の時間が穏やかかつ豊かに進むようでした。併せて買い求めた同店オリジナルパッケージデザインのキットパスは、絵心ある方に差し上げるつもりです。
キットパス皆画展は9月4日(土)まで。ご関心のある方は、ぜひ訪ねてみてください。また、今後の開催予定はこちらをぜひご覧ください。実店舗の持つメディアとしての、人と人が交流できる場としての可能性をあらためて感じられることでしょう。