「日本の商業が“流通業”という言葉を使うようになってから、とても大切なものをおざなりにするようになったんだよ」
商業経営専門誌の編集者として駆け出しのころ、覚えたての「流通業」という言葉を使うと、よくこの人にたしなめられました。担当編集者である私に多くのことを教えてくださった、故・倉本初夫主幹が優しい笑顔でこう言っていたのを、今も鮮明に覚えています。
商いとは「流して通す業」ではなく、「(一人ひとりのお客様に)小さく売る業」である——これが倉本主幹から教わったことです。流通業が焦点を当てているのは、商品でありモノです。しかし、小売業が対象としているのは、あくまで人でありお客様。
この認識の違いを大切にしてください。いったい、あなたは何を見て商いをしているのか、と。
コロナ禍の続く小売業でさらに存在感を増すアマゾンジャパンでは、物流センターにロボットを導入し、さらなる効率化に邁進しています。自走式ロボット「アマゾン ロボティクス」が在庫棚を持ち上げて、ピッキングする作業員の元まで自走するという仕組みです。
秒速は1.7メートル、最大300キロの重さまで対応できるといいます。アメリカではすでに4万5000台以上が導入され、物流コストを押し下げ、配達スピードをさらに短縮化することに貢献しているといいます。まるで近未来SF映画のような光景です。
20兆円にまで拡大したインターネット通販市場の競争優位性は、その便利さと早さにあります。だから、効率化は至上命題。これがモノを扱う流通業の王道だと言ってもいいでしょう。こうした傾向はさらに拍車をかけて伸展していくこととなります。私たちはその便宜を受けています。
ここで考えてください。あなたの商いは流通業か、小売業か、と。一人ひとりのお客様に向き合い、そして寄り添い、その人に対するベストを尽くすのが小売業です。お客様との接点でいかに価値を高めるか――それを忘れてはなりません。