実店舗には2種類あります。
一つは「ここなら売れる」とばかりに、見込みある立地を求めて出店する店。こうした肥沃な立地には、多くの店が蜜をたたえた花に群がる蜜蜂のように集まります。しかし、花が盛りを過ぎれば、蜜蜂はどこかへと飛んでいってしまいます。
もう一つは「この土地の暮らしを守りたい」と、どんな過疎地域にあっても、自らが蜜をたたえる花になろうと努める店です。地域の暮らしを守りつつ、広域から蜜蜂を集めるだけの力を磨こうとします。そして、それは並大抵のことではありません。
前者は土地に対する愛着はありませんから、その土地が痩せれば、そこから去ることは当然です。その意味で畑を食い荒らして移動するイナゴのようであり、その狩猟性は否定できません。彼らは規模と領域の拡大を行動原理とします。
後者は土地に根づいた木のようであり、その土地を離れることはありません。花をつけ、実をならせ、それによって土地の生きものに生きる糧を提供するという共生の関係を前提とします。彼らは農耕性を特徴とし、支え、支えられる関係性を前提とします。
そんなことを書いたのは、手許に届いた一通のはがきを見たからです。はがきには、山々を背景に青空に広がる入道雲。色鉛筆の丁寧な筆致が送り主の誠実で根気強い人柄を感じさせます。
はがきに添えた便りには「一歩一歩頑張っていきます」というひと言。送り主は、岐阜県付知町の食料品店「やまにし」の西尾真明さん。1930年創業の店を継ぐ商人です。
「付知の食に喜びを 付知の食で悦びを」と掲げる西尾さんの顧客への約束は、「付知の地域の食を支えて、さらに食を楽しんでいただくことでお客様の幸せな生活を支えていきたいと思っています。また、付知の食文化を守りながら、地域外の方にもこの地の食を楽しんでいただく努力をしていきます」というものです。
江戸時代から続く製法で自家製造する地味噌や地たまりといった土地の味を基本に、毎日の暮らしを支える惣菜が魅力の店。その丁寧な仕事ぶりを感じさせる一枚のはがきでした。訪れたのは二度ですが、いつも気になる店と商人なのです。