気に入った映画は何度も観るくせがあります。この映画もそう。劇場で2回、そして、この山の日にAmazonプライムビデオで3度目を観ました。
それは「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」という2014年のアメリカ映画。「アイアンマン」の監督として知られるジョン・ファヴローが10億ドルと言われるギャラを断って「アイアンマン」シリーズの監督を降り、自ら製作・監督・脚本・主演を務めたロードムービーです。
主人公はカール・キャスパーという腕の立つ料理人。一流レストランの総料理長として名声を得ながらも、お客様の満足よりも店の格を重んじるオーナーと衝突して店を辞め、さらには多くのフォロワーを持つレストラン評論家との論争がツイッターで大炎上して、職も名誉も失います。
物語は、そんな彼が本当に“やりたい”仕事をしながらフードトラックでアメリカ大陸を横断していくというもの。本当にやりたい仕事、それは自分の料理で目の前のお客様に喜んでもらうことでした。そして、それは彼が自身の能力で“やるべき”仕事でもあり、彼が“やれる”仕事でもありました。
心に残ったのは、フードトラック改装の手伝いをしてくれた男たちへ礼として、店の看板メニュー、キューバサンドを無料でふるまう場面。元妻に引き取られている一人息子と初めて厨房に立ち、サンドの焼き加減を教えながら、相次ぐ注文にこたえているときの父子のやりとりです。
「(サンドが)焦げている」と、カールが息子の焼き加減を注意すると、息子は「どうせタダだよ」と反論します。すると、カールは息子を厨房の外に連れ出し、こう続けました。ここに彼の仕事観が表れています。
「よく考えろ、料理は退屈か?
パパにとっちゃ――、人生最高の喜びだ。
パパは立派な人間じゃない。
いい夫でも――、いい父親でもない。
だが、料理は上手い。
お前にそれを伝えたいんだ。
お客さんが笑顔になると、パパも元気になる。
……お前もきっとそうだ」
「はい、シェフ」
「あのサンド、出すか?」
「出しません」
「さすが俺の息子だ」
料理に必要なのは人の心に触れること。この世でいちばん幸せなことは、自分が一生懸命に手掛けた仕事で人に喜んでもらうこと。こうした仕事観こそ、私たちが大切にすべきもの――これが本作で彼がもっとも伝えたかったことだと思います。
ジョン・ファヴローは「アイアンマン」で一躍注目されたものの、その続編で酷評された経験があります。そして彼はこの低予算自主制作映画をつくりました。それにより彼本来の輝きを取り戻したことと、本作のストーリーが重なります。
商いも同じです。大切なのは人の心に触れることです。そんなことを考えた映画でした。