笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

薬味として私たちの身近にある七味唐辛子。同じ名前で呼ばれていても、その七味の品質はさまざま。価格も1キログラム数百円から1万円超までと幅があり、同じ名前で呼ぶには無理があります。

 

問題なのは、粉にしてしまえば素人にはわからないこと。原材料表示を見ても、その実際は霧の中。私たち生活者はもしかたら多くの場合、「七味唐辛子のようなもの」を口にしているのかもしれません。

 

 

七味唐辛子の主原料は唐辛子。「鷹の爪」はその代名詞として知られています。しかし、鷹の爪と呼ばれるほぼすべてが栽培しやすい他の品種であり、安価な外国産であることは知られていません。現在、日本に流通している赤唐辛子の99%が外国産と言われます。

 

鷹の爪とは、何百とある唐辛子の一品種のみを指し、その香りと辛さは群を抜いています。江戸時代の医者であり学者であった平賀源内が、72品種の唐辛子を解説した『蕃椒譜』で「食するにはこれを第一とすべし」と激賞するほどの品種です。その鷹の爪に、国内流通量の1%という希少な純粋種の栽培現場を訪れる機会がありました。

 

 

大阪府堺市内のある畑でのこと。膝ほどの高さに上を向いて伸びる鷹の爪。それぞれが個別に実をつけ、熟す時期もそれぞれで異なるため、収穫は一つひとつを手摘みします。1キログラムの粉をつくるのに6000個ほど必要ですが、10時間摘んでも3キログラムにもなりません。

 

その生産性の非効率さから徐々に栽培されなくなる中、100年以上にわたって営々と純粋種を守り続けてきたのが堺の和風香辛料専門店「やまつ辻田」でした。先ごろ、「堺鷹の爪」が大阪府から「なにわの伝統野菜」として認証されました。品目の追加は4年ぶりという快挙です。

 

 

「正直言って売上は微々たるものだし、利益も少ない。しかし、鷹の爪を守ることは自分の使命と言っても過言ではありません。これを守り伝えていくことは、日本の食文化を守ることであり、自分のアイデンティティであり、魂やと思うてます。まあ、ひと言で言うたら、鷹の爪に恋してるんやね(笑)」と4代目店主、辻田浩之さんは言います。

 

あなたにも、そんな使命があるはずです。使命とは、自分を超えた存在から与えられる任務。英語で天職をcallingと言います。誰かの役に立とうと努め続けていれば、使命は必ず与えられます。努めて、そして耳を澄ませてください。あなたを呼ぶ声が聞こえるでしょう。

 

 

使命に打ち込む人たちはすべて美しい。いくつになっても若々しさを失いません。そんな商人に出逢うとき、私もそうありたいと思います。辻田さんに私が惹かれるのは、おそらくそうしたところからでしょう。

 

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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