「消費者」という言葉に、抵抗感を覚えます。それは、お客様を「(商品を)費やして消す者」と捉えることへの違和感からきています。ですから、消費者の代わりに「生活者」と表現することを心がけています。なぜなら、私たちが向き合っているのは「お客様」と呼ばれ、一人ひとりが個性を持つ「(商品を)活かして生きる者」なのです。
こう考える人は多いようで、『大辞林』第三版では、生活者をこう定義しています。「人は単に消費するだけではなく、消費活動を通じて生活の豊かさや自己実現を追求しているという考えに基づき、消費者に変わり用いられる語」。
お客様を生活者と捉えると、そこには私たちが自らの商いで喜んでもらいたいと願い相手の顔がはっきりと浮かびます。「あの人に、この商品で笑顔になってもらいたい」と営む商いにこそ、私たちの喜びがあるはずです。そのために私たちは、商品を仕入れ、またはつくるのです。そのために私たちは、店を構え、売場を整えるのです。
商業界草創期の指導者、岡田徹は次のような詩を遺しています(『岡田徹詩集』)。そこには、活かして生きる者としてのお客様をしっかりと意識した商人の愛情が表現されています。
何でも一通り揃えております
しかし、ロクなものはございません
――こうした商売のどこに
お客を引く魅力があるだろうか
AとBの二種類しかございません
しかし、そのいずれもが
確信のある品でございます
――こういう特色のある商売の仕方に
お客は大きな魅力を感ずる
確信のある品を売るためには、売場を整えなければなりません。たとえ古くてもすっきりとした清潔感にあふれ、居心地を良くしましょう。そうすれば、無理な値引きをすることなく適切な利益をいただきながら、お客様は喜んでくださるでしょう。無駄な在庫やロスも減り、経営状態も改善するはずです。
お客様を「費やして消す者」と捉えたら、注意は商品という“物”に当てられ、自店の都合が優先します。しかし、「活かして生きる者」と捉えたら、“人”を見つめ、彼らの喜びを第一とするようになります。「消費者と生活者の違いなど、たかが表現上のこと」と思ってはいけません。私たちは言葉によって生きる存在なのですから。