大量生産品を郊外大型店舗で廉価販売するビジネスモデルが主流を占める家具業界。いえ、多くのカテゴリーが同じようなものかもしれません。そこには、大量生産、大量流通、大量消費、そして大量廃棄を前提とする人口増加社会の“消費財”発想があります。
一方で、一生使えるものを、世代をつないで愛用できるものを製造販売し、顔の見えるお客様と長く付き合う店もあります。その一つへ、出張の折に足を伸ばしてみました。店主はあいにく不在でしたが、相変わらず心地よい店内に癒されました。
数日後、その店からニュースレターが届きました。偶然とはいえ、なんだかとてもうれしくなりました。その号の特集は「ありえないほど大きな木に、会いに行きました」。良いものの価値をお客様に丁寧に伝える同店の商品の特徴をひと言でいうなら「100年家具」。一生使える家具しか造らないというポリシーを貫く店主の思いは「山と森、木と人々の暮らしを一本の糸でつなぎたい」というものです。
1.長く使えるものであること
2.使う人の心と体に無理のないものであること
3.地球環境に負担のかからないものであること
この三つの方針を凝縮した商品の一つに「一生使える木の学習机」という商品があります。この机には引き出しが一つしかありませんし、椅子は別売りです。
けれど、引き出しの底板まで樹齢百年を超す広葉樹の無垢材を使用し、合板や集成材など化学接着剤を必要とする素材を一切排除しています。組み立ての接着は膠、表面塗装は亜麻仁油と蜜蝋という自然素材を使用しています。
一代の机を一人の職人が製材から一貫して造っています。一台16万円強と、他社の製品と比較すると2倍から3倍の価格ですが、同店の人気商品となっています。店主は、こう語ります。
「所帯が小さいからできるんです。私たちは店の規模や売上を不相応に大きくしようとは考えておらず、店と商品を磨いて底光りするくらいにしたい。そして、自分たちができることを誰かのために命がけでやりたいだけです」
この店の商いにふれたとき、私は次の一文を思い出しました。商業界創立者、倉本長治のものです。
「人間の営みの根本に愛情を置け。商売の根本にも愛の観念を置くとき、嘘のない、お客様に親切な、信頼される商店が生まれる」
愛とは他者へのおもいやり――それが商いの真実ではないでしょうか。