商人にとっていちばんの幸福は、良い従業員に恵まれることです。ところが、多くの商人が「従業員の質が下がった」と嘆いています。
私はこれまで数多くの店や企業を取材してきましたが、良い店には必ず良い従業員が集います。逆もまたしかりです。良い従業員は良い店主の元に育まれ、良い店主は正しい哲学・理念)の元に生まれます。
「従業員の質が下がった」と嘆く店主ほど、自分自身が成長していない事実に気づいていません。まず自身が良い店主となりましょう。「良い店主」とは、従業員を巧みに褒めたり叱ったりする人のことではありません。従業員と共に喜び、共に泣ける人のことです。
従業員と共に喜び、共に泣き、一代で世界最大の小売企業をつくり上げた商人がいます。20世紀を代表する経営者の一人、ウォルマート創業者のサム・ウォルトンです。サムは自らが試行錯誤の末にたどり着いたビジネスの成功法則を、後進に伝えようと10篇の短文にまとめています。後進たちはそれを「サムの十カ条」と読んでいます。
①自分の仕事に熱中しよう
②利益を従業員と分かち合って、パートナーとして扱おう
③同僚を活気づけよう
④できる限りすべてをパートナーたちに話そう
⑤従業員が仕事のためにしたことはすべて高く評価しよう
⑥成功をたたえ、失敗の中にユーモアを見いだそう
⑦すべての従業員に耳を傾け、彼らに話させる方法を工夫しよう
⑧顧客の期待を超えよう
⑨競合相手よりも経費をコントロールしよう
⑩逆流に向かって進もう
太字で示したように、なんと十カ条のうちじつに半数が従業員・同僚に関する教えです。サムはお互いに知恵と力を合わせて働く天才でした。
従業員とは損益計算書に計上される経費科目ではなく、価値の創造者です。従業員とは作業をこなすワーカーではく、同じ目的に向かうファミリーの一員です。そして従業員とは、店や企業を裏側まで知り尽くしている最も大切なお客様であることを忘れてはなりません。
拙著『店は客のためにあり店員とともに栄え店主とともに滅びる』の主人公、倉本長治はそれを「店は店員とともに栄える」と表現しました。倉本の提唱はサム・ウォルトンによって実証されたのです。