人であれ何であれ、名前は大切です。
どちらが父で、どちらが母かは別として、書籍にとって著者と編集者は親のようなもの。生まれるまでは健康であるよう最良を尽くし、生まれてからは元気に育てと力を合わせるーーこうした二人三脚が良書を育てます。
出版において両者を経験する私の実感です。
出産・子育てにとって、命名は一大行事。わが子の特質を表わし、こんな人生を歩んでほしい、多くの人にかわいがってもらいたい、とあふれる願いを名前に込めるものです。
書籍にとって、名前はタイトルです。
新著『店は客のためにあり店員とともに栄え店主とともに滅びる』の命名にあたっても、それぞれが繰り返し考え、知恵を絞りました。決定したタイトルの裏側には、陽の目を見ることのない案がたくさんあるものです。本書もそうでした。
「名づけ親」という場合もあります。
辞書によると「生まれた子に名前をつける人。昔は主に母方の祖父が命名した」とか「生児に名前をつけることによって結ばれる仮の親」とあります。つまり、命名を通じてその子と傷名を結ぶ行為です。
本書にも、じつは名づけ親がいます。
その人との面談のとき、編集者がタイトル案を相談しました。私にも案があったのですが、まずはその人の考えを聞こうと耳を澄ませると、よどみなく「これしかないでしよう」というひと言に続けて「この三行にすべてが表わされています」。
「その人」とは、柳井正さん。
ファーストリテイリング会長兼CEO。本書に解説を寄せてくださった人物であり、日本の小売業史に未来永劫その名を残す革新をもたらした商人です。「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」という彼の挑戦に終わりはありません。
彼を変えた言葉がありました。
かつては地方の商店街にある紳士服店の、うだつの上がらない跡取りだった柳井さん。ある言葉との出会いが彼を変え、商いを変えました。以来、これこそ「私の唯一の座右の銘」と守り続ける言葉があります。
店は客のためにあり
店員とともに栄え
店員とともに滅びる
それがそのまま本書のタイトルとなりました。
言葉には、不可能を可能に変え、望む未来を叶える力があると私は信じています。本書には「伝説の経営指導者」「日本商業の父」と言われた倉本長治の言葉を超訳した100の教えが綴られています。言葉との出会いはひとを変えます。
あなたにも、そんな出会いがあるでしょう。