「人は、自らが教えるときに最もよく学ぶ」
愛知・岡崎で始まり、いまや全国450地域、2000商店街、30000事業者が実践している「得する街のゼミナール」(通称「まちゼミ」)を取材するたびに思い起こすのが、経営学の碩学、ドラッカーの遺したこの言葉です。アメリカ先住民族の一つ、ソーク族にも「師は教えることでまた学んでいる」という、同様の意味を持つ格言があります。
三方よしの活性化事業
まちゼミとは、商店街の店(店主)が講師となり、その分野のプロならではの専門知識や店主の好きなことを無料で受講者(顧客)に伝える少人数制講座。各地で店を鍛え、生活者の暮らしにワクワクした楽しさをもたらし、結果としてのまちに活力を生み出しています。
講座内では販売をしない――これは、まちゼミの大切なルールの一つです。その場の売上げよりも、受講者に自店を知ってもらうこと、そして講座を通じた顧客満足を目的とするからです。その結果として「顧客」には知識と満足が、「店」には新規客との出会いと売上げが、「地域」にはにぎわいがもたらされます。“三方よし”の活性化事業といわれるゆえんです。
さらにまちゼミは、売り手と買い手の関係ではなく、教える側(店)と学ぶ側(顧客)、いえ親しい友人としての絆を顧客との間に築く営みでもあります。その関係性は一方(店)から他方(顧客)への固定的なものではありません。
「お客さまが何を求めているのかが分かるようになった」
「これまでプロとして伝えるべきことを伝えていなかった」
「もっと喜んでいただけるように、さらに知識を身につけたい」
「商いに対する考え方が大きく変わった」
これらは取材を通じて出会った、まちゼミ実践者たちの言葉です。そう、彼らは教えることで、多くのことを学んでいました。まさにドラッカーやソーク族の言葉のとおりです。
答えは己の中にある
これまで中小商業者は自らの衰退の原因を「大型店が進出してきた」「競合店が安売り競争を仕掛けてきた」「今の客は商品を見る目がない」などと、他者に求めることが多かったように思います。しかし、そこに解決策はありませんでした。
答えは己の中にあります。まちゼミは、自らの商いを見つめ直す機会を与えてくれ、自らを革新する力を育ててくれます。まちゼミの価値はそこにあり、それゆえ多くの商業者が実践するのだと私は考えています。
「商売の真実の目的は、儲けることにはない。社会の人々の要求を満足させる点にあるのであって、それを遂行することで、利益を挙げるのが望ましいのみである」と私の師匠、倉本長治は言いました。まちゼミの本質もここにあるようです。
明日9月28日は第6回目を迎える「全国まちゼミサミット」。岡崎には全国からまちゼミ取り組む事業者が集い、学びや失敗、喜びや悩みを共有することでしょう。そうした交流の中にこそ、明日につながる知恵があることでしょう。私も支援者の一人として、そんな創発を促したいと思う夜です。