新著『店は客のためにあり店員とともに栄え店主とともに滅びる』は副題として、「倉本長治の商人学」としました。「昭和の石田梅岩」「日本商業の父」と言われた倉本長治とは、いち早くスーパーマーケットをはじめとするチェーンストア、ショッピングセンターを紹介し、その育成に努める一方、まちの小さな商店にも深い愛情を注ぎ、その発展にも尽力したことで知られます。
そうした小さな店への支援の一つに、地域の専門店の研鑽団体「日本専門店会連盟」の存在があります。その熱心な支援ぶりは、倉本が主筆を執った雑誌「商業界」で毎号のように日専連について書いたことからも明らかです。
一部の反対勢力から「商業界は日専連の第二機関誌のようだ」と揶揄されましたが、倉本は臆することなく、この高い志を掲げる商業者団体を応援しました。倉本は企業規模とか店数よりも、その店が本当にお客様のためにあるのか否かが大切だったのです。
その日専連の理念「日専連信条」を起草したのは、倉本とともに商業界ゼミナールで熱弁をふるい、商業者の指導に人生をかけた男、岡田徹でした。岡田の名文の一部を現代語に直して紹介します。
岡田徹の遺した「日専連信条」
商人は消費者の身近にいて、専門家としての深い知識と、親しい隣人としての誠実さで、消費者の経済をしっかりと守り、その日常生活をより豊かにして、暮らしよい明るい社会をつくることが与えられた使命です。それゆえ、この職業は消費者のためにあるのであり、社会的に意義があり、仕事への誇りと喜びとに生涯をかけても悔いがないことを自覚しましょう。
店は、この仕事の真価が発揮され、その存在意義が広く消費者に認められるための場です。同時に、「お客さま」と愛称される消費者が商品とその代価どの取引を超えて、商人の心の美しいさと深い思いやりとに心打たれ、友情の交換が行われる「信頼の場」なのです。
消費者が求めるものは、良品正価の保証であり、買物の愉しさです。商人が消費者に信頼されるのは、この保証と、愉しいお買物の中に流れているまごころゆえです。したがって、経費の無駄を極力省き、みずからの生活もつつましやかにすることで、消費者の負担をできるかぎり軽くするよう努めることが、正しい報酬と永遠の繁盛をもたらす唯一の道です。
哲学なき経営は滅びる
ここには、単に日専連のみにとどめるには惜しい“商いの誠”があります。哲学なき組織は滅びる――これは歴史が証明する真理であり、同じように哲学なき経営も滅びるのです。
ただし、理念や哲学は飾っているだけでは何の意味もありません。時代の変化の中で洞察し、常にその意味するところを腹に落とし、実践することによってのみ、そこに生命は宿ります。
本書『店は客のためにあり店員とともに栄え店主とともに滅びる』は、そうした自己探求の際に、その羅針盤となるよう書きました。変化の激しい時代の嵐に流されそうになったとき、昔の航海者が座標軸とした北極星のように、あなたの進む先を照らすものでありたいのです。