「世のため人のため」という言葉があります。
「世のため、人のためになり、ひいては自分のためになるということをやったら、必ず成就します」という言葉を遺したのは松下電器産業(現パナソニック)創業者の松下幸之助。経営の神様に反論するつもりはありませんが、ことあるごとに「世のため人のため」という人には違和感をおぼえることがあります。
「人の為」と書いて「偽(にせ)」と読みます。ちなみに「人に世」と書くと伳(セツ)と読み、贅沢やおごりを意味します。肩肘を張って「世のため人のため」という前に、まずは自分のために自分を磨きましょう。
それを仏語では「自利利他」と言い表します。自利とは、自己の修行により得た功徳を自分だけが受けとることをいい、利他とは、自己の利益のためでなく、他の人々の救済のために尽くすことをいう。この両者を完全に両立させた状態に至ることを、大乗仏教の理想とするそうです。
もう一つ「利他」という言葉を含む仏語があります。忘己利他――天台宗の開祖、伝教大師最澄の『己を忘れて他を利するは慈悲の極みなり』という言葉です。自分のことは後にして、まず人に喜んでいただくことをする、それは仏の行いで、そこに幸せがあるのだという意味です。つまり我欲が先に立つような生活からは幸せは生まれないのだということです。
自分を磨く「自利」と、我欲に走るこことは違います。「忘己」のいう己こそ我欲のこと。それを忘れることは自利につながります。
誰かのためになどと思い込みすぎず、淡々と己を見つめ、向上を図りましょう。その結果が誰かのためになっていればいいのです。本当の商いとはそうしたものではないでしょうか。