コマーシャルで見かけるようなナショナルブランドは一切扱わず、おいしくて体に良い商品だけを置く群馬・高崎の小さなスーパーマーケット、まるおか。そこを訪れる者は時間を忘れ、食の奥深さと楽しさを堪能できる、まさに小さな食のテーマパークです。
しかし、そうした選び抜かれた品揃えは、一日にしてできあがったのではありません。そこには、店主の丸岡守さんの半生を掛けた挑戦のドラマがあります。
大学卒業後、父母が始めた食料品店を受け継ぎ、スーパーマーケットへの業態変更に取り組んだ丸岡青年。青果の仕入れに市場へ行くと、父はこう言いました。「いいか、高い等級のものは仕入れるな。仕入れ値が高くなって、それが価格に反映される。そうしたら、そんな高いものをお客さんは買ってくれるはずもない。おいしさなんかよりも売れやすい価格帯のものを仕入れろ」。
「自分が食べておいしいと思えるものをお客さんに届けたい」と思っていた丸岡さんにとって、父の指示は納得できないものでした。しかし、駆け出しの彼は従わざるを得ませんでした。
そんな不完全燃焼の日々に、あるとき大きな転機が訪れます。指導を仰いでいたスーパーマーケットの先輩経営者から、ある学びの場に誘われたのです。半信半疑なものの、温泉で骨休めをするつもりで、商業界ゼミナールの会場である箱根へと向かいました。
するとそこには全国から数千人の商人が集い、広い会場を埋め尽くしています。皆、壇上の男の言葉に固唾を飲んで耳を傾けていました。男は友に語るように穏やかに、時に愛する子を叱るように激しく、こう言いました。
「店は客のためにある」。男とは商業界創立者、倉本長治。昭和の石田梅岩、日本商業の父と言われた男です。
丸岡青年が自らの商いに希望と確信を抱いたのはこのときでした。その後、理想の店づくりに邁進する中で、いくつもの試練に向き合うこととなりますが、そのとき彼を支えたのがこの言葉でした。言葉には、こうした力があります。