「画は物の形を本とす。なれば寫真(志やううつし)をなして、これに筆意を加うる時はすなわち画(え)なり」とは、江戸時代の浮世絵師、歌川広重が遺した絵の手本集『絵本手引草』の一文です。「見たままを写実的に描いたものは絵ではない。筆意を加えたものが絵である」という意味になります。
たとえば代表作の一つ、東海道五十三次の一枚「三条大橋」にも筆意が加えられています。目に焼きつくような印象的な構図は、実際にはありえないものだそうです。それでも観る者の心に残るのは、写実を超えた筆意があるからなのでしょう。
広重の言う「筆意」は、商いにも通じる考えではないでしょうか。お客様の欲する商品をそのまま提供するのは当たり前の作業です。誰にもできる商いだから、価格や利便性が差別化要因になりがちです。
お客様自身が認識していない、言葉に表現できないニーズを汲み取りましょう。それを、あなたならではの工夫を凝らして具体的に提示することが商人の本当の務めです。商品に商人の真心を添えること、それは筆意と同じ境地でしょう。
そのためには、豊富な商品知識と、行動に裏づけられた商品調達力が求められます。そのためには鍛錬が求められ、簡単なことではありません。しかし、そこに商人の悦びがあり、商いの醍醐味があるのだと思います。
【今日の商う言葉】
小さな工夫の累積が
繁盛の鍵であることを
気づかないようでは
商人として失格である