お会いしたことはありませんが、私はこの先達の熱い体温をいつも感じることができます。言葉の力とは偉大なものです。
商業界草創期の指導者、岡田徹。倉本長治が弟のようにかわいがり、その早すぎる死に悼んで、自らが編集にあたった『岡田徹詩集』の序文に倉本長治はこう記しています。
「岡田徹の遺していったものを読み返すたびに、私は泣けて仕方がない。ここに彼の詩集を編むにあたっても、私は泣く泣く自分で、その全部を手写ししたのだった」
「生きる」と題された彼の一編の詩があります。記されたのは1958年、日本の商業が坂の上の雲をつかもうと、明日をより良くしようと向かっていた時代でした。「馬小屋式の商店街は滅亡する」「スーパーマーケット時代の到来必至」と予言しながら、岡田は一冊の詩集を遺して逝きました。
日本の商人に
今、一番必要なものは
組織でも
技術でもない
自分が消費者のための商人である
ということを知ることである
そして自分が
消費者のために役に立つ商人である
ということを知ることである
自分の商業に対する信念と
商人として
死ぬ勇気を持つことである
私は自分の職業を今日が日まで
誇りに思い得なかった多くの商業者たちに
期待する
君たちが商人として
死ぬ勇気を持つことができるならば
死ぬ勇気とはすなわち、今をより良く生きること、悔いなき時を過ごすことと私は理解しています。よく死ぬとは、よく生きるということと同義なのです。私たちは誰でも、毎日一歩ずつ死へと向かっています。そして終わりはわかりません。だから、と思うのです。良く生きなければならない、と。
新著『店は客のためにあり店員とともに栄え店主とともに滅びる』には、岡田徹の教えもこめられています。商人の心の糧となることを念じつつ、その教えを、今を生きる商人に贈ります。