『文庫X』をご存じですか。東北の一書店がかつて、ある文庫本にカバーを掛け、書名と著者名を隠して販売した企画です。売場の隅で始まった試みは、一書店では考えられない驚異的な販売実績を記録しました。
「企画」と書きましたが、「企画ありき」のアイデアで行われた販促手法ではありません。「多くの人に読んでもらいたいと考えた結果、中身を隠すことにしました」と企画理由を振り返る担当者の“熱さ”が生み出した奇跡といえるものです。
以後、多く店が似たような企画を立てたものの、二匹目のどじょうはいませんでした。モノを売るための“販促”と、価値を伝えるための“伝道”の違いがそこにはあります。文庫Xの本質は「伝えたい」という思いにこそあります。
一人の商人が出合える商人には限りがあります。すべての商品に平等に情熱を注ぐことは不可能です。だからは、店の数だけ、販売員の数だけ、違う売場があるはずです。
そのために大切なのは、商人の蓄積とアンテナの高さ。蓄積すべきは単に商品知識だけではなく、あなたの経験や学び、失敗、笑顔、後悔。あなたをかたちづくるあらゆるものとことを駆使して、アンテナを高く掲げましょう。
「他店で売れているから」
「テレビコマーシャルでよく見かけるから」
そんなことは、どうでもいいじゃありませんか。
品揃えとは、商人としてのあなたの哲学そのもの。売り方とは、人間としてのあなたの熱意そのもの。「この商品をあのお客様に出合わせたい」というお節介をあなたはどれほど抱いていますか?
【今日の商う言葉】
一品を仕入れては
希望に胸をふくらませ
一品を売っては
お客様の喜びを感じよう