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生活防衛時代の価値

レジに並ぶお客さまの手元を見ると、以前より買い方が慎重になっている――。点数は絞る。迷う時間が長い。値札だけでなく「失敗したくない」という表情が先に立つ。そんな現場感覚を、多くの商人が共有しているのではないでしょうか。

 

実際、日本では物価上昇への警戒が根強く、家計の先行き不安から、生活防衛的な節約志向が強まっているという調査結果も出ています。 また、内閣府が毎月公表している消費者態度指数でも、2025年12月(季節調整値)は37.2と低位で、暮らし向きへの慎重さが続いています。

 

消費者態度指数は、いまの暮らし向きや将来への見通しを、消費者自身の声から数値化した“景気の体感温度計”。全国の世帯に対して、「暮らし向き」「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」の4項目について今後半年間の見通しを尋ね、その回答を指数化したものです。50以上で良くなると見る人(前向き心理)が多いとされ、50未満で悪くなると見る人(慎重・防衛心理)が多いとされます。商いにとっては、「売れる・売れない」を判断する前に、「買おうという気分が世の中にあるか」を測る重要な指標と言えます。

 

こうした「生活防衛時代」に、伸びる店に共通している点は何でしょうか。安さの競争に勝っていることではありません。じつはお客さまの不安を減らし、買い物の“失敗確率”を下げていることです。つまり「安心」を売っている店です。

 

生活防衛時代に買われているもの

 

生活防衛という言葉は、ともすれば“節約”と同義に見えます。ですが本質は、もっと切実です。お客さまは安く買いたい以上に、「損をしたくない」のです。もっと言えば、家計が苦しいときほど、失敗は痛い。だからこそ、買う前に確かめたい。迷いたくない。後悔したくないのです。

 

ここで価値の重心が変わります。かつては「欲しいものを、なるべくお得に」でしたが、いまは「必要なものを、確実に、納得して」書いたいのです。このとき商人に問われるのは、値下げではありません。納得の設計です。こうした「安心」を売る店には、三つの共通項があります。

 

第一に、安心を“見える化”しています。
品質や違いを、専門用語ではなく生活の言葉に翻訳する。迷う人が迷わないように、選ぶ理由を短く置く。おすすめを押しつけない代わりに、「この人の生活なら、これがいちばんラクになります」と筋道を立てる。生活防衛時代に強い店は、説明がうまいのではなく、不安をほどくのがうまいのです。

 

第二に、安心の“総額”を提示しています。
安さは値札の一点で比べられますが、家計は本当のところ「総額」で動きます。長持ちするか、買い替え頻度は減るか、失敗したときのリスクは小さいか、手入れや補充は面倒ではないかーーこれらの総額です。
だから、価格だけでなく「これを選ぶと、結果的にラクになる」という未来を示すことが安心に直結します。ここができる店ほど、価格競争から抜け出せます。実際、物価上昇が続く局面では、家計は節約を強める可能性が指摘されますが、そのとき選ばれるのは“納得できる支出”です。

 

第三に、安心の“約束”を守り切っています。
欠品を減らす。代替案を用意する。返品・交換のルールを明快にする。使い方の相談窓口をつくる。こうした小さなことの積み重ねが「ここで買えば大丈夫」という確信になります。生活防衛時代の信頼は、広告ではなく、約束の履行でしか生まれません。

 

納得が生む安心感が店を守る

 

値引きやポイントは、もちろん助けになります。けれど、それだけでは“疲れる商い”になりがちです。なぜなら、生活防衛が長期化すると、お客さま関心は「得したい」より先に「消耗したくない」に移るからです。そこで効いてくるのが次の価値です。

 

・迷わない価値:選択肢を絞り、「これでいい」を最短で渡す
・失敗しない価値:用途・暮らし方に合わせた提案で後悔を減らす
・続けられる価値:詰め替え、定期性、手間の少なさまで含めて設計する

 

言い換えるなら、生活防衛時代に売れるのはモノそのものではなく、家計の不安と生活の摩擦を減らす“仕組み”なのです。

 

今日から始めるなら、大きな改革はいりません。売場に「安心の一文」を一本通してください。たとえば、主力商品を一つ選び、POPをこう変えます。「安い」「人気」ではなく、“失敗しない理由”を書きましょう。

 

「迷ったらこれ。○○の人は、これがいちばんラクです」
「買い替え頻度が減ります。結果的に家計が軽くなります」
「初めてでも失敗しない手順を、ここで一緒に確認できます」

 

生活防衛時代に、商人が届けられる最大の価値は、値引きではありません。お客さまの不安を受け止め、納得の道筋を示し、「これで大丈夫」という納得を手渡すことです。その安心が、店を守り、人を守り、次の景気の波を乗り越える力になります。

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