
あなたは「昔のお客」を見ていないか
駅前のコンビニで働く人。ドラッグストアで買い物をする家族。飲食店の厨房で働く若者。いまや外国人の姿は観光地や大都市だけのものではなく、地方都市の日常の風景にも自然に溶け込むようになった。
一方、日本の人口は減り続けている。総務省統計局が2026年8月20日に公表した人口推計によると、8月1日現在の総人口は1億2268万人。前年同月に比べ59万人減った。さらに3月1日の確定値では、日本人人口が前年同月比86万6千人減った一方、外国人人口は25万7千人増え、382万1千人となっている。
日本の人口は減っている。だが、すべての人が同じように減っているわけではない。ここに、これからの商売を考える大切なヒントがある。
減る日本、変わる日本
人口減少という言葉を聞くと、「お客が減る」「市場が縮む」と考えがちだ。もちろん、その側面はある。しかし人口統計をもう少し丁寧に見ると、それだけではないことがわかる。
子どもは減る。働く世代も減る。一方で高齢者は増え、外国人も増えている。単身世帯が増えるなど、世帯の形も変わっている。つまり、日本の市場は単純に小さくなっているのではない。市場を構成する人そのものが変わっているのである。
ここを見誤ると、「人口が減るのだから商売はこれから厳しくなる」と考えるだけになってしまう。だが、本当に問うべきなのは人口が何人減ったかだけではない。いま、自分の店の周りにはどんな人が暮らしているのか――商人はそこを見なければならない。
外国人も「暮らす人」
外国人という言葉を聞くと、訪日観光客や人手不足を補う働き手を思い浮かべる人は多い。しかし、日本で暮らす外国人は、働き手である前に生活者である。住まいを借り、食料品を買い、子どもを育て、病院へ行き、地域で毎日の生活を営んでいる。
商売の側から見れば、「外国人」という特別な存在として見るより、地域に新しく加わった生活者であり、お客であると考えたほうが実態に近い。
もちろん、外国人人口が急速に増えれば、地域によってはさまざまな課題も生まれる。言葉の違い、ごみ出しなどの生活ルール、住宅、教育、医療、雇用、文化や宗教の違い。互いの常識が異なれば、行き違いや摩擦が起きることもある。
だからといって、「外国人が増えたから問題が増えた」と、人そのものを問題の原因にしてしまえば、本質を見失う。大切なのは、違いをなくすことではない。違いがあることを前提に、互いに理解しやすいルールや仕組みを整えることである。
商売でも同じことが言える。
商売は誰を見ているか
長く店を取材してきて感じるのは、繁盛を妨げるものの一つが「うちのお客はこういう人だ」という思い込みだということである。もちろん、自店が主にどんな人の役に立ちたいのかを明確にし、いわゆる「ペルソナ」となるお客像を定めることは大切だ。
しかし、それを一度決めたら変わらない「理想のお客像」にしてはいけない。地域の人口構成や暮らし方が変われば、実際に店を利用する人も、その人たちが求める商品やサービスも変わっていく。
地域に外国人住民が増えているのに、店内表示は日本語だけ。高齢者が増えているのに、POPの文字は小さい。単身世帯が増えているのに、大容量の商品ばかり。若者が減っているのに、昔と同じ若者向け商品を昔と同じ売り方で並べ続ける。これらは店でよく見かける光景だ。
そこに共通しているのは、いま目の前にいるお客ではなく、昔のお客を見て商売をしていることである。商売は、お客が変われば変わらなければならない。
これは外国人対応に限った話ではない。高齢化も、単身化も、共働き世帯の増加も、外国人住民の増加も、すべて同じ問いを店に突きつけている。あなたはいまのお客を本当に見ていいるか――という問いである。
違いは商機になる
では、外国人のお客が増えた地域で、小さな店は何をすればよいのか。何も、大がかりなことから始める必要はない。
商品の写真をわかりやすくする。値段を見やすくする。簡単な多言語表示を加える。翻訳アプリを使う。どんなことを尋ねられるのかを記録する。どの商品がよく買われているのかを見る。まず必要なのは、「売ろう」とすることではない。知ろうとすることである。
そして、「外国人」とひとくくりにしないことも大切だ。国籍も違えば、年齢も所得も家族構成も違う。日本に来たばかりの人もいれば、長く地域で暮らしている人もいる。「外国人向けの商品をつくろう」と考えるより、「この街で暮らす新しい人たちは、何に困っているのだろう」と考えるほうがよい。
困りごとがあれば、そこに商売の種がある。わかりにくいことがあれば、わかりやすくする。不便があれば、便利にする。不安があれば、安心をつくる。それは、外国人相手だから特別なのではない。昔から商人がやってきたこと、そのものだ。
見るべきは目の前の人
人口が減る時代には、商売も縮んでいくしかない。そう考える人は少なくない。しかし、私はそうは思わない。確かに、人は減る。だが、同時に人の暮らし方は変わる。地域に暮らす人の顔ぶれも変わる。必要とされる商品やサービスも変わっていく。
だから商人が見るべきなのは、人口統計の減少幅だけではない。変化の中で、誰がこの街に暮らしているのか――そこを見なければならない。
日本人であろうと外国人であろうと、若者であろうと高齢者であろうと、商いの基本は変わらない。目の前の人をよく見る。その人が何に困っているのかを知る。そして、自分の店にできることで役に立つ。
商売とは、こちらが来てほしいお客だけを待つ仕事ではない。いま、そこにいる人をお客として知る仕事である。人口減少時代に必要なのは、減っていく数字を嘆くことではない。変わっていく街を見つめ、その中に暮らす人の変化に合わせて、自らの商いも変えていくことだ。
お客が減ったのではない。お客が変わっているのだ。その変化に気づき、受け止め、商いを変えられる店から、次の繁盛は始まる。
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