このたびは設立20周年、誠におめでとうございます。長きにわたり販売士の社会的地位の向上のための啓発活動や、販売士の育成・資質向上に尽力されてこられたことに深く敬意を表します。
貴会とのご縁は2016年5月、総会終了後に講演させていただいたことが始まりでした。当時は商業経営専門誌「商業界」に在職しており、「繁盛事例に学ぶ売れる店の方程式」と題して、取材を通じて出会った優れた店々を紹介させていただきました。
それから8年が経ち、商業と暮らしを取り巻く環境は大きく変わっています。コロナ禍が残した傷はいまだ癒えず、さらには相次ぐ物価高の終わりは見えません。売る側も買う側も、著しい環境変化の中に苦しんでいます。
しかし「販売」の本質は変わりません。不便、不満、不快、不都合といった“不”に向き合うお客様の“不”を解決することです。
カスタマーハラスメントという言葉が独り歩きしているようですが、お客様はいつも淋しいものです。だから、私たちはあたたかさで店を満たさなければなりません。ほのぼのとした故郷のようなぬくもりでお客様の心をあたたかく包みましょう。
そうすれば、店は「お客様」という名で呼ばれるすべての人の心の癒しの場となります。買物という行為を満足だけで終わらせずに、歓喜にまで昇華させていくことが販売に携わる者の務めでなのです。
では、お客様の共感と信頼を得るには何が必要でしょうか。それは、お客様を大切な友として遇する心を持つことにほかなりません。数多くの店がある中、あなたの店に訪れてくれたという奇跡に感謝しましょう。商品やサービスが売れるのは、お客様と心を通わせた結果です。
ところで「販売」とは、どのような営みでしょうか。お金が普及する前の古代では、欲しいものを手に入れるための方法は物々交換でした。海の民と山の民がそれぞれの収穫余剰物を交換したことが始まりと言われています。
そこには異なる文化の交流があり、人と人の出会いがありました。つまり、販売とは人と人の付き合いであり、心を通わせる営みにほかなりません。販売とは、心の交流からすべてが始まる聖なる営みです。
ある一人のお客様の顔を心に浮かべ、その暮らしぶりを想い描きましょう。その人のために商品を仕入れたり、つくったりするとき、何を思い浮かべますか。商取引によって得られるお金ではなく、きっとその人が喜ぶ笑顔でしょう。
そのお客様が来店して、その商品を手にとってくれたとします。そして、「そうそう、こういうのが欲しかったの。ありがとう」と喜んで買ってくれる。そこに売る者の喜びがあります。
そうした経験を、あなたもきっとお持ちのことでしょう。そんなとき、販売は素晴らしい仕事だと思いませんか。あなたが毎日携わっている販売とはそういう仕事です。
これからも「本日開店」というべき初心を忘れず、お客様に向き合ってください。それが暮らしと社会をよくすると確信しています。