お客様はさびしい
諸君の店で買わなければ
それはいやされないと考えたら
すべてのお客様の寂しさを
満足させる商人とは
愛の仕事である
商業界草創期の指導者の一人、新保民八(しんぼたみはち)の言葉です。ある用事で、彼の遺した講演集を読み返していて、冒頭の一文に出合いました。
新保は、花王の常務取締役を務める傍ら、商業界の設立に参画。青年期に神学校に学ぶなどキリスト教の影響を強く受け、消費者に対する愛情、公平・平等を旨とする正しい商い、商業を一生の仕事とし、全身全霊を打ち込む勤勉さを持つことなどを説きました。
熱弁をもって知られ、講演中に激して聴衆に椅子を投げつけたという逸話も残っています。その熱く激しい講演は、全国の商業者の熱狂的な支持を受け、戦後の商業近代化運動の精神的な牽引車となりました。冒頭の一文も、愛と正しさを商いに求めた新保らしい言葉です。
今はなき商業界会館の1階と2階の間の壁に掲げられている欅に彫られた「正しきに よりて滅びる 店あらば 滅びてもよし 断じて滅びず」は、幕末の国学者・平田篤胤の歌を本歌取りした新保らしい作として知られています。今も多くの商業者に愛唱されています。
また、新保は広告のプロフェッショナルでもありました。「広告とはお客へのラブレターである」といい、「店はお客様に夢を見せる場所」と言いきっています。彼の言っていたことは、今なお古びていません。なぜなら、それが本質だからです。