これまでに4000人以上を取材する中、私が大切にしていることがあります。取材とは、こちらの都合で時間をもらい、こちらの都合にしたがって話を聞く営みです。だからこそ、その時間を相手にとっても実りあるものになってほしい――。それが私の取材スタイルです。
聞きたいことだけを聞く営みは、取材としては不完全です。本当に聞くべきことは、その先、その奥にあります。「ああ、私はこんなことを本当は考えていたんですね」と言ってもらえたとき、その取材は双方にとって意味のあるものになります。
取材とは、顕在化していない対象の思いを顕在化してもらう営みです。そんな取材はどうしたらできるのでしょうか。それは、鳥の目と虫の目――シンプルに表現するとこうなります。対象を客観的に評価する視点と、同じ心に寄り添って本人になりきることです。
両方の目を駆使する中で、隠れていた本質が見えてくるのです。もうお気づきかもしれませんが、商いにとってもこれら二つの目が大切です。「買う身になる」とは、これら二つの目を持ち、心を併せ持つこと。このときお客様は「そうそう、これが欲しかった」と言ってくださいます。
「私はこんなことを考えていたんですね」と取材対象が感じてくれたとき、私の取材は成功したといえます。人とは己のことをなかなかわからないもの。販売も同じだと確信しています。
【今日の商う言葉】
売る身になって
買うお客様はいないから
買う身になって
売らなければならない