笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

夕暮れの上海、人民広場近くの歩行街は人々の足音とネオンの明かりでざわめいている。地下鉄からあふれ出た若者や家族連れが、行き交う人波にまぎれながらファミリーレストランの前に次々と列をつくっている。その店はサイゼリヤ。中国での低価格外食需要の“最前線”だ。

 

この店が象徴するのは、日本のデフレ耐性を武器に中国市場に挑む企業の姿です。サイゼリヤは現在の約500店から一気に1000店へ倍増させる計画を打ち出しました。一方、回転ずし大手のスシローも中国全土での店舗数を3割増する方針を掲げ、沿岸部から内陸部まで進出を加速させています。

 

 

日本では低価格戦略を駆使して長年にわたり利益を積み上げてきた両社ですが、今、中国の街角では、その戦略がまさに試されようとしています。物価下落が鮮明になる“逆風”の中で、どれだけ消費者の心をつかみ、市場シェアを奪えるか――その答えは、これからの出店の先にあります。

 

デフレが追い風になる理由

 

中国経済は近年、成長鈍化と不動産不況で個人消費が冷え込み、外食市場にもデフレ圧力がかかっています。消費者物価指数(CPI)は2023年以降、月によってはマイナスを示し、物価が下がる中で人々はよりいっそう価格と価値を天秤にかける行動を取るようになっています。高級店や高価格帯の外食チェーンが伸び悩む一方、価格に敏感な層は着実に増加しています。

 

こうした状況下、サイゼリヤは日本で長年培ってきた「低価格でも品質を落とさないオペレーション」と「メニューの簡素化による原価管理」で、この環境を好機ととらえています。スシローも、回転ずしの仕組みを活かした効率的な仕入れと大量調達で同様の強みを発揮しています。

 

進む中国デフレ経済

 

「上海や北京の百貨店では値下げセールが通年化しており、若者はブランドよりも“実用価格”を重視する傾向が鮮明になっている」と、親しい中華系経営コンサルタント。たしかに統計でも住宅価格は下落が続き、家計資産の目減りが消費マインドをさらに冷やしていることがわかります。

 

中国政府は金利引き下げやインフラ投資で景気を下支えしていますが、構造的な人口減少と高齢化は回復の足かせになっています。エコノミストの多くは「短期的な景気刺激はあっても、物価上昇率は当面低水準にとどまる」と見ており、低価格志向は中期的にも続くとの予測が優勢です。

 

このデフレ環境は外食産業にとって脅威である一方、コスト効率を極限まで磨き上げた企業には新たな市場拡大のチャンスをもたらします。その筆頭に、日本のデフレ強者がいます。

 

成功への三つのカギ

 

両社に共通する成功のポイントは三つあります。これらは、中国へ出店する上で欠かせない要因です。

 

1.現地化の柔軟性
味付けやメニューを一部ローカライズし、現地の嗜好に合わせます。サイゼリヤはすでに中国限定メニューを導入しています。

 

2.オペレーションの標準化
人件費や物流コストが変動する中国市場でも、厨房設備や調理工程を極力統一してコストを抑えます。

 

3.都市分布の戦略
沿岸部の大都市に加え、成長が期待される中西部の新興都市にも進出し、消費層の拡大を先取りします。

 

大陸で試される日本式経営

 

中国の外食市場は巨大ですが、競合も多く、変化も激烈です。味や価格だけでなく、スピード感ある出店計画とデジタル化された販売促進が欠かせないでしょう。それでも、長年デフレ環境を生き抜いてきたサイゼリヤとスシローにとって、コストを極限まで磨き上げてきた経験は何よりの武器です。

 

日本で鍛えられた“デフレ強者”が、いま中国大陸という大舞台でその真価を示そうとしています。両社の挑戦は、外食ビジネスの新たな国際競争を映す鏡と言えるでしょう。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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