笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

農産物直売所のあり方が、いま大きく問われています。安さと新鮮さだけでは、もはや競争を勝ち抜くことはできません。では、どのような直売所が、これからの時代に選ばれるのでしょうか。

 

そのヒントは、茨城県つくば市にある「みずほの村市場」にあります。1990年の創業以来、地元農家とともに運営されてきたこの市場は、現在もなお地域に根を張りながら、農業の可能性を広げ続けています。今回はその取り組みを通じて、これからの直売所がめざすべき姿を考えます。

 

「農家が主役」の仕組みづくり

 

みずほの村市場の最大の特長は、「農家が価格を決める」ことにあります。出荷する生産者が自らのコストを計算し、納得のいく「適正価格」を設定する。直売所側はその価格に口を出すことなく、むしろ品質管理に注力します。

 

出荷する際には、一定の品質基準をクリアする必要があり、そこには妥協がありません。参入当初は48戸だった生産者は、現在54戸に増加。その多くがプロ意識を持って品質向上に努め、「価格ではなく品質で勝負する」直売所として、消費者からも厚い信頼を集めています。

 

実際に、契約農家の平均年間販売額は約800万円に上り、これは全国の直売所出荷農家の平均を大きく上回る数字です。自分たちで値決めをし、責任を持って販売する。その自主自立の姿勢が、高収益を生み出す原動力となっているのです。

 

農業を「体験」に変える力

 

もう一つ、みずほの村市場の魅力は、「農業を体験にする力」です。市場には、地元の蕎麦を味わえるレストラン「蕎舎(そばや)」を併設し、食べる楽しみとつくる現場を結びつけています。

 

さらに、「ひまわり迷路」や「田植え・稲刈り体験」などのイベントも継続的に開催し、来場者に農の営みを五感で感じてもらう工夫が凝らされています。単に「買いに来る」だけの場所ではなく、「何度でも訪れたい」「子どもに体験させたい」と思わせる、体験価値の高い直売所となっているのです。

 

このような取り組みが功を奏し、みずほの村市場には年間30万人もの来場者が訪れています。体験と購買を融合させることで、単価以上の“感動”が生まれています。

 

海外へ挑戦する姿勢

 

みずほの村市場は、国内にとどまらず、海外にも販路を広げています。2013年には、タイ・バンコクに直営店を開設。現地の富裕層をターゲットに、日本の3倍近い価格で高品質な農産物を販売するという、先駆的な試みに挑んでいます。

 

輸送費や現地の食文化の違いという課題を乗り越えながら、国際市場で戦える農業モデルをつくろうとするその姿勢は、多くの農業関係者にとっても刺激となるはずです。

 

グローバル化の波に対し、「地方は守りに入る」のではなく、「地域だからこそできる輸出価値を高める」──その発想の転換が、農産物直売所にも必要なのではないでしょうか。

 

地域文化の核となる存在

 

みずほの村市場はまた、単なる直売所にとどまらず、地域文化の発信基地でもあります。たとえば、敷地内では、かつての大きな水車を復元するプロジェクトが進行中です。これは単なる景観整備ではなく、「地域の原風景を未来につなぐ」という願いのもと、住民や来訪者との共有価値を育むものです。

 

農業は、単なる生産活動ではありません。その土地で暮らす人々の歴史や文化、営みのすべてが詰まった「物語の源泉」です。みずほの村市場は、その価値を理解し、伝え続けているからこそ、地域の人びとにとって「誇りある存在」となっているのです。

 

直売所の未来は“信頼”にある

 

みずほの村市場から学べる最大の教訓は、「直売所は信頼の場である」ということです。それは、農家と市場、消費者と商品、そして地域と暮らしを結ぶ信頼の積み重ねによって成り立っています。

 

安さだけを競っては、いずれ価格競争に巻き込まれ、持続性を失ってしまいます。必要なのは、「この価格には理由がある」とお客様に納得してもらえるだけの品質と姿勢。そして、「この人から買いたい」と思っていただけるだけの人間味と信念です。

 

これからの直売所には、「売る場所」から「伝える場所」への進化が求められます。農家が誇りを持ち、お客様が喜びを感じ、地域が元気になる。そんな直売所が、これからの時代の希望となるはずです。

 

直売所に必要な四つの視点

 

みずほの村市場から、全国の農産物直売所が学ぶべきポイントを整理すると、以下の四つに集約できます。

 

①農家に価格決定権を与え、経営者として自立させる仕組み
→品質基準や競争ルールで意識を高める。

➁品質と情報公開によって、信頼を可視化する
→安全性・美味しさ・原産地などの情報を丁寧に伝える。

③体験や加工でファンを育てる場づくり
→収穫体験・加工品提供など、顧客との接点を強化。

④地方から世界へ目を向けるグローバル戦略
→海外直営店など地域に閉じず販路を広げる挑戦。

 

直売所こそ地域の未来である

 

「みずほの村市場」は、1990年の創設以来、これらの取組みを通じて直売所の存在価値を問い直してきました。生産者の自立、品質の向上、信頼獲得、そして地域文化の継承──すべてが有機的に結びついているからこそ、30万人が「選ぶ」「訪れる」市場へと成長したのです。

 

もしあなたが直売所を経営していたり、これから挑戦を考えているなら、まずは立ち返るべきは「なぜ価格競争に巻き込まれるのか」「誰に何を伝えたいのか」という問いです。そして「自分たちは何を信頼して売るのか」を明確にすること。それが、これからの直売所にとって最も大切な指針となるでしょう。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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