笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

一冊の本から地域は再生できる

広島県庄原市東城町。朝、店のシャッターが上がると、最初にやってくるのは本を買いに来る客とは限らない。スマートフォンの操作がわからないと困っている高齢者、進路に迷う若者、何となく話し相手を求めて立ち寄る常連客――。

 

「ここに来れば、誰かがいる」という安心感が、ここ「ウィー東城店」にはある。この店は書店でありながら、本だけを売っているわけではない。化粧品や文具、雑貨が並び、コーヒーを飲めるスペースがあり、敷地内には美容室やコインランドリーもある。

 

だが、それ以上に大切にされているのは、地域の人の話を聴くことだ。人生の節目で手に取る一冊、悩みを抱えたときに背中を押してくれる一冊。ウィー東城店は、本を通じて人の人生と向き合う場所として、人口減少が進む町に、今も確かな灯をともしている。

 

「売れない」以前に消えつつある

 

全国の書店数は、ここ10年で約4000店減少した。約3割の自治体には、すでに1軒も書店がない。背景には、雑誌売上の激減、ネット通販の普及、読書人口の減少がある。

 

だが、問題を「本が売れなくなったから」と片づけてしまうと、本質を見誤る。本当の危機は、書店が地域の生活導線から外れてしまったことにある。かつて書店は、通学路や商店街、駅前にあり、「用事がなくても入る場所」だった。偶然の出会いがあり、立ち読みから興味が芽生え、人生を変える一冊に出会うこともあった。

 

その「偶然」がいま、失われている。

 

 

「書店活性化プラン」が見据えるもの

 

こうした状況を受け、政府は2024年に「書店振興プロジェクトチーム」を立ち上げ、2025年6月に「書店活化プラン」を公表した。このプランが画期的なのは、書店を単なる一業種としてではなく、「地域の文化拠点」「読書環境を支える社会インフラ」「教育・創作・コンテンツ産業の源泉」として明確に位置づけた点にある。

 

プランでは、書店の課題を次の5つに整理している。
1.読書人口の減少と魅力向上
2.図書館・自治体との連携
3.業界慣行(返品・再販制度)の課題
4.経営の効率化・省力化(DX、RFID)
5.新規出店・事業承継・資金繰り
つまり、「頑張れ」と精神論を投げかけるのではなく、構造的に立て直す覚悟を示した点に、このプランの本気度がうかがえる。

 

 

先行事例「ウィー東城店」の特徴

 

興味深いのは、ウィー東城店の取り組みが国の書店活性化プランで示された方向性と重なっていることだ。その意味でウィー東城店は、書店活性化プランの「先行実践例」といっていい。

 

■読書人口を「増やす」のではなく「戻している」
ウィー東城店は、無理に本を売ろうとしない。まず人が集まる理由をつくり、会話が生まれ、信頼関係ができた先に本がある。これは、プランが掲げる「来店動機の創出」「体験価値の提供」そのものだ。

 

■書店を「地域の生活拠点」に再定義している
本+美容+コーヒー+相談。書店を核に、暮らしの機能を重ね合わせることで、来店頻度を高め、滞在時間を伸ばしている。これは、プランが示す「書店リノベーション」「地方創生と結びついた書店活用」の実践例である。

 

■人が価値を生む書店経営
最終的に人を引き寄せているのは、棚でも設備でもなく、「この店の人に会いたい」という気持ちだ。書店活性化プランが強調する「読書推進人材」「担い手の存在価値」を、現場で体現している。

 

 

書店に求められる三つの転換

 

ウィー東城店と書店活性化プランから、私たちは次の三つを学ぶことができる。

 

①書店は「売場」ではなく「場」である
売上は目的ではなく結果。まず人が集まり、語り、学び合う「場」をつくることが、商いの土台になる。

 

②書店は「単独」で戦わない
図書館、学校、自治体、商店街と組み、地域全体で読書環境を育てる。書店はそのハブになれる。

 

③書店は「効率化」で時間を生む
DXやRFIDは、人を減らすためではなく、人が人と向き合う時間を増やすための投資である。

 

道路や水道と同じように、書店は「なくなって初めて価値に気づく」存在だ。だが、ウィー東城店は教えてくれる。書店は、まだ終わっていない。やり方を変え、意味を問い直せば、地域の未来を照らす灯になれる。

 

書店活性化プランは、そのための追い風であり、設計図となりうる。あとは、現場でどう生かすか。一冊の本と、一人の人から、書店の再生は今日も静かに始まっている。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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