朝のコーヒーを飲みながらSNSを眺めていると、ふと心が和む投稿があります。カードの開封動画に沸き立つ歓声、旅先で“ぬい”を撮る大人たちの満ちた表情、几帳面に並べられたフィギュア棚の写真。そこには、忙しい日常の中でも「好き」を大切にする大人たちの姿が映っています。
Kid + Adult
物価高、節約、将来不安──。多くの消費が抑え込まれる今の日本で、玩具市場だけが伸び続けている理由は何でしょうか。その答えは、静かに市場の中心へ浮上しつつある “キダルト” の存在です。
キダルト(Kidult)とは、Kid(子ども) と Adult(大人) を掛け合わせた造語で、「大人でありながら、子どものような遊び心を持ち続ける人」を指します。かつては子ども向けとされていた玩具・ゲーム・アニメ・キャラクター商品を、大人が積極的に楽しみ、深く愛好する姿を表す言葉として使われます。
単に“童心に返る”という意味ではなく、趣味・推し活・収集・癒やし・自己表現 といった現代ならではの価値観と結びついた、ひとつの文化的なライフスタイルです。
かつて玩具は子どものためのものでした。しかしいま、玩具を最も熱心に楽しみ、支えているのは20〜40代の大人たち。彼らが推しを愛し、世界観に浸り、コミュニティとつながる力が、日本の玩具市場を新しい時代へ押し上げています。
キダルトが牽引する新しい玩具市場
日本玩具協会の統計によれば、2024年度の国内玩具市場は 1兆992億円(前年比+7.9%) と過去最高を更新しました。これは少子化、家計の実質賃金低下、物価高という逆境を跳ね返す勢いです。その背景には、かつての常識では考えられなかった消費構造の変化があります。特に顕著なのがキダルト層の拡大です。

トレーディングカード──“手が届くワクワク”の象徴
ポケモンカードや遊戯王など、トレカ市場はここ数年で爆発的に成長しています。1パック数百円という気軽さがありながら、コレクション、対戦、限定カードの追求など「深く浸れる世界」を持つのが特徴。この“日常の中で楽しめる没入体験”が、物価高でも選ばれ続けています。
キャラクター玩具・ホビー──世界観に浸る大人たち
フィギュア、プラモデル、ぬいぐるみが大人に支持されているのは、ただモノとしての価値ではなく、“心の支え”や“癒やし”として機能しているからです。ぬい撮りや棚の写真投稿など、SNSとの親和性も高く、所有する喜びがさらに拡張される仕組みが整っています。
ハイテクトイ──遊びと未来が重なる場所
ロボット、インタラクティブトイ、デジタル連動玩具など、テクノロジーが玩具の世界観を広げました。子どもの頃に夢見た未来を、大人になった今、手にできる……。この“原体験の再発見”がキダルト層を熱狂させています。
このように、いま伸びているカテゴリーはすべて“大人が自分の時間を豊かにする玩具”。これは市場の大きな質的変化を意味します。
なぜキダルトは強いのか
キダルト層の存在感がここまで大きくなった理由は、現代の生活環境と価値観の変化に深く結びついています。主なものとして次の4点が挙げられます。
1.可処分所得の自由度
単身・DINKSなど、ライフコストの裁量が大きい層が増え、趣味・推し活・自分への投資にお金を使う文化が定着しました。
2.SNSによる自己表現
玩具は「買って終わり」ではありません。撮る、飾る、語る、共有する──買った瞬間から“作品”として価値が生まれる のです。SNSがその舞台となり、消費が継続的な楽しみに変わります。
3.コミュニティの力
大会、イベント、オンライン配信など、大人が集まり、語り、競い合う場が増えています。誰かとつながる体験は、購買意欲を強く高めます。
物価高や景気不安で生活が息苦しく感じられる時代だからこそ、手のひらサイズの幸せ を求める気持ちは強くなるのでしょう。玩具は、心の温度を取り戻す小さな灯りのような存在です。こうした背景から、キダルト市場は「景気に左右されにくい安定した領域」として確立しつつあります。あなたはいかがでしょうか。
キダルトをつかむ企業が成長する
キダルト市場を理解し、魅力を形にできる企業は、これからの玩具業界を牽引していくでしょう。次のような特徴を持ちます。
1.世界観(IP)を軸にした展開力
バンダイナムコのように、アニメ・映画・ゲームの物語を立体化し、多様な商品へ広げられる企業が強い。IPはキダルトにとって“居場所”であり、そこに没入する喜びが継続消費を生みます。
2.コレクションの階段設計
ガチャ(500円)からプレミアムフィギュア(数万円)まで、価格帯のステップを意図的に設計する企業はロイヤルティを高めやすい。“集める楽しみ”が継続性を生むためです。
3.コミュニティ育成
大会やイベントで顧客同士が交流できる場を提供する力は、いまやブランド価値そのもの。キダルトにとって“仲間と共有できる体験”は、モノ以上の価値を持ちます。
4.専門店・中小店の活用ポイント
専門店や個店にとっても、キダルト市場は宝の山です。
・推し棚・撮影スポットを設置
・カード大会・交換会などイベント開催
・ガチャ→定番→限定品のステップ品揃え
・地域クリエーターとのコラボ商品
どれも大きな投資を必要としませんが、「この店はわかっている」と感じてもらえると、顧客は長く通うファンへと育っていきます。
大人が“遊びを取り戻す”時代
玩具市場の未来を決めるのは、もはや子どもの数ではありません。それ以上に重要なのは、大人が自分の人生にどれだけ“遊び”を取り戻すか ということです。
物価高にあっても、心の豊かさを求める気持ちは揺らぎません。むしろ、こうした時代だからこそ、小さな玩具が与えてくれる幸福や癒やしが価値を増しています。
キダルトは、未来の市場をひらく存在です。その熱量をどう理解し、どう応えるか。そこに、玩具業界だけでなく多くの専門店が飛躍する可能性が広がっています。玩具はいま、大人の心を満たす文化へと進化しています。その変化を読み解き、活かす者から次の市場が生まれていくでしょう。







