笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

かつて、自分でつくって自分で売る菓子屋は不況に強く、業種の欠落が続く商店街にあっても最後まで残る業種と言われてきました。しかし、そうでもなくなりつつあります。

 

菓子製造小売業を取り巻く環境は、ここ数年、かつてないほど厳しさを増しています。帝国データバンクの「菓子製造小売業の倒産動向調査(2025年1月-7月)」によれば、倒産件数は前年同期比で増加しており、とりわけ中小規模の事業者にとっては経営の安定性が大きな課題となっています。

 

 

菓子店を取り巻く4つの課題

 

その背景には、構造的な課題が複数重なっています。それぞれの課題を整理しました。

 

1.原材料費の高騰と仕入れ価格の上昇
菓子の主要原材料である小麦、砂糖、バターなどは仕入れ価格が高止まりしており、輸入依存度の高い品目は為替変動の影響も受けやすくなっています。仕入れコストが増えることは、そのまま利益率を圧迫し、中小規模の店にとっては死活問題です。さらに、燃料費や包装資材費も上昇傾向にあり、原価管理の重要性はかつてないほど高まっています。

 

2.人手不足と労働環境の課題
菓子製造業は手作業が多く、熟練の技術者を確保することが難しい業種です。特に繁忙期には人手不足が生産性に直結します。長時間労働や低賃金は従業員の離職を招き、安定した生産体制の維持が困難です。最近では、若手の人材を確保するために労働環境や福利厚生の改善が必須となっています。

 

3.消費者の購買行動の変化
消費者は健康志向や節約志向を強め、従来の高糖質・高カロリーの菓子への需要は減少しています。また、少子化の影響により子ども向け菓子の市場も縮小傾向にあります。これにより、ターゲット層の絞り込みや商品の差別化が求められる時代となっています。

 

4.競争の激化と価格競争
大手チェーンやコンビニエンスストアのプライベートブランド商品が増える中、価格競争は激化しています。中小規模店は、価格だけで勝負するのが難しく、利益率の低下が続きます。こうした環境では、単なる商品販売ではなく、顧客体験や付加価値の提供が不可欠となります。

 

小さな店の挑戦――川崎市「新岩城菓子舗」

 

では、この逆風をどう乗り越えるか――。川崎市にある1931年創業の老舗和菓子店「新岩城菓子舗」の事例が示唆に富んでいます。私の大好きな店のひとつです。

 

川崎市は人口150万人を抱える大都市で、駅周辺にはタワーマンションや大型商業施設が立ち並びます。駅直結の「ラゾーナ川崎プラザ」は日本有数の年商を誇るショッピングセンターとして知られています。その賑やかさを抜けた先にある商店街に、ひっそりと「新岩城菓子舗」はあります。

 

三代目女将の徳植由美子さんは、父の急病により菓子づくりの経験がないまま店を継ぎました。銀行員だった夫と共に試行錯誤を重ねながら店を守っていましたが、2006年のラゾーナ開業により商店街の来客は激減。売上も急落し、二度目の存続の危機を迎えます。

 

「息子のためにも、応援してくださるお客様のためにも、店を閉めるわけにはいきませんでした」と徳植さんは当時を振り返ります。

 

転機は、参加したセミナーでの一つの出会いでした。関西で朝焼きどら焼きが有名な和菓子店の社長に窮状を相談すると、「おいしいどら焼きをつくりたければ、毎朝焼かなければならない」との叱咤を受けます。

 

その教えを忠実に実践した結果、2008年以降、同店のどら焼きは年間2万個以上販売される看板商品へと成長しました。「学んだら実践する」「一期一会を大切にする」――この姿勢が繁盛の鍵となったのです。

 

 

厳しい環境を乗り越えるヒント

 

新岩城菓子舗の事例から見えてくる、菓子製造小売業が逆風を乗り越えるためのポイントは以下のとおりです。できるところ、やりやすいところから、すぐに取り組みましょう。

 

1.学んだら即実践する
セミナーや他店の事例から得た知識を、迷わず自店で試すこと。

 

2.お客様の声を最優先にする
「おいしい」「ありがとう」と言われる体験を、従業員と共有し、商いの原動力とする。

 

3.独自性を追求する
看板商品や季節限定商品で差別化を図り、顧客に愛される価値を提供する。

 

4.一度きりのチャンスを逃さない
カイロスの神のように、前髪しかないチャンスをつかむ姿勢が成功の鍵。

 

5.労働環境と生産性を両立する
IT導入や作業効率化、従業員の働きやすさを追求し、安定した生産体制を維持する。

 

このように菓子製造小売業は、厳しい市場環境に直面しています。しかし、小さな店だからこそ、顧客との距離感を大切にし、学びと実践を重ねることで、新たな成長の糸口を見つけることができます。

 

新岩城菓子舗の取り組みは、まさにその具体例です。逆風の中でも、工夫と行動で繁盛のチャンスをつかむ――その姿勢が、未来を切り開くのです。

 

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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