笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

天気にかかわらず、人は暮らしていきます。雨が降っても、風が吹いても、暑さが身を刺しても、日々は止まりません。だからこそ、静かに人に寄り添う道具があります。傘もそのひとつです。

 

しかし今、その存在は軽んじられています。使い捨てが当たり前となり、骨が折れたら買い替える。ビニール傘が価格と利便性の名のもとに街を席巻し、傘という道具の価値も、持つ喜びも、忘れられつつあります。

 

そんな時代に、傘の尊厳を守り続けている店があります。福岡・新天町商店街の「しばた洋傘店」。明治39年創業、100年を超える歴史を持つ老舗です。

 

この店は、傘をただの雨具として売っているのではありません。道具としての機能以上に、使う人の暮らしに寄り添い、人と人とのつながりを大切にしてきました。その商いの姿勢からは、多くの学びを得ることができます。

 

 

売って終わらせない覚悟

 

「傘は、人生に寄り添う道具です」

 

しばた洋傘店三代目店主であり、日専連福岡理事長も務める柴田嘉和さんのこの言葉には、同店のすべてが込められています。

 

大量生産の安価な傘が主流となった現代において、しばた洋傘店が扱っているのは、修理が可能な高品質の傘です。骨が折れても、布が破れても直して使うことを前提とした、作り手の誠実さが込められた一本です。

 

修理を請け負うということは、「売って終わり」の商売ではありません。「売った後の責任を果たす」という、覚悟ある商いの姿勢です。そこには、「ものを大切にする文化」を守り続けるという使命感があります。

 

この姿勢は、名入れサービスにも表れています。柄に刻まれるのは、贈る人の想いであり、受け取る人の記憶です。一文字一文字を、四代目の篤志さんが丁寧に彫り上げています。その傘を手にした人にとって、雨の日が特別な時間になることでしょう。

 

傘が、人の心をつなぐ媒介となる。それこそが、しばた洋傘店が本当に売っているものです。

 

 

街に根ざす商いの姿

 

同店が掲げているコンセプトは「Whether Company(ウェザーカンパニー)」です。「weather(天気)」と「whether(〜であろうと、なかろうと)」をかけた造語で、天気に関係なく、どんなときも人の暮らしに寄り添うという意志が込められています。

 

傘は、主役にはなりづらい道具です。けれども、必要なときには確実に支えとなる存在です。だからこそ、本当に良いものをきちんと選び、長く使っていただきたいという思いが、製品にも、接客にも、店構えにも息づいています。

 

こうした商いの姿勢は、地域にも波及しています。柴田さんは商店街の発展にも心を砕いてきました。時計塔の設置、共同食堂の運営、音楽イベントの開催など、店の外でも街の文化と活力を守ろうと尽力されています。

 

商店街の景観に調和した外観や、四季折々のディスプレイは、街ゆく人々にとっての風景をつくり出しています。商人がまちの文化人でもあるという役割を、柴田さんは静かに体現されているのです。

 

 

人が選び、人が売る

 

現在、多くの専門店や個人商店が目の前の売上に悩んでいます。物価は上がり、消費者の動きも読みにくくなり、不安と焦りが募るばかりです。けれども、こういう時代だからこそ、「商いの本質」に立ち返る必要があります。

 

それは、「売ること」そのものではありません。「誰のために、何を、どう届けるか」を問い直すことです。ただの物販であれば、ECやAIが効率的に担ってくれるでしょう。

 

しかし、目の前のお客様の表情を見て、暮らしを想像し、手渡す一本を選び抜く――それは、人にしかできないことです。商人にしかできないことです。

 

目先の流行や売れ筋に振り回されず、「これが自分の商いです」と胸を張って言える商品と姿勢を貫けるか。柴田さんの言葉が、その問いへの答えを与えてくれます。

 

「商いに終わりはありません。お客様と向き合い続ける限り、毎日が新しい挑戦です」

 

老舗と呼ばれるにふさわしいのは、過去の歴史を持つ店ではありません。今もなお挑戦し続けている店のことです。100年を超えても進化を止めない、しばた洋傘店こそ、その象徴です。

 

 

専門店の誇りと使命

 

傘は、ただの雨具ではありません。それは人の心をそっと包み、ときには人生の節目を彩る役割を担っています。

 

柴田さんが語るように、「傘は人生に寄り添う道具」です。この視点を持ち、商いに取り組まれているからこそ、しばた洋傘店は100年を超えてもなお、輝きを失っていないのです。

 

この姿勢は、すべての専門店に通じるヒントになります。「専門店」とは、単に特定の商品を扱う店ではありません。その商品を通じて、暮らしに何を届けられるかを、真摯に考える存在です。

 

買い手がまだ気づいていない価値を見つけ、引き出し、伝え、手渡す。だからこそ専門店は、地域における“文化の媒介者”であり、“人の営みの編集者”としての役割を担っているのです。

 

たとえ派手な広告や大規模な展開がなくても、その街や人々の暮らしに深く根ざすことができれば、店は愛され続けます。その証明が、しばた洋傘店という存在なのです。

 

傘のように、そっと人を守り、見えないところで力を尽くす。その控えめな姿勢こそが、いま求められている商いの在り方ではないでしょうか。

 

 

届けるのは、価値と想い

 

専門店ができることは、実はとても多いのです。値下げ競争にも、最新技術にも左右されない「価値の届け方」があります。それは、使い捨てではなく、“使い続けたくなる”ものを提案し、その背景にある“意味”や“想い”を共有する力です。

 

時代が変わっても、変わらないものがあります。それは、「人の暮らしを豊かにしたい」という願いと、「目の前の誰かのために商う」という志です。この二つを大切にする限り、専門店はこれからの時代にも確かな存在意義を持ち続けることでしょう。

 

静かに、けれども確かに商いを続ける者こそが、これからの時代の本当の勝者になるはずです。それを教えてくれるのが、福岡・しばた洋傘店という、一軒の小さな、しかし大きな意味を持つ傘店なのです。

 

この記事をシェアする
いいね
ツイート
メール
Picture of 笹井清範

笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


新刊案内

購入はこちらから

好評既刊

売れる人がやっているたった4つの繁盛の法則 「ありがとう」があふれる20の店の実践

購入はこちらから

Social Media

人気の記事

都道府県

カテゴリー