笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

選ばれる農産物直売所へ

日本全国の地域に根差した「農産物直売所」。その数は2万3000にのぼり、スーパーマーケットに並びます。

 

農産物直売所は、単なる野菜の販売所ではありません。そこは生産者の想いが伝わり、地域の個性が表れ、そして来訪者の心を動かす「体験の場」でもあります。しかし、人口減少や物流の進化により、ただ安く新鮮な野菜を並べるだけでは生き残れない時代が来ています。

 

ここでは、農産物直売所が今後も選ばれ続ける存在であるために必要な戦略について、「道の駅」との違い、スーパーマーケットとの差別化、そして注目すべき事例も交えながら、商いの視点から考えてみます。

 

道の駅と農産物直売所

 

しばしば混同される「道の駅」と「農産物直売所」。確かに両者とも地域の農産物が並び、観光客の立ち寄り先としての役割も担っています。しかし、その成り立ちや運営の主旨には明確な違いがあります。

 

「道の駅」は、国土交通省の施策として1993年から整備が進められてきた施設で、道路利用者の休憩・情報発信・地域振興の3つの機能を併せ持ちます。全国に1,200ヵ所以上(2024年時点)存在し、行政が主体となって運営していることが多く、駐車場やトイレ、観光案内なども充実しています。

 

一方、「農産物直売所」は、JAや生産者団体、個人などが運営主体であるケースが多く、農家が持ち寄った新鮮な野菜や加工品を販売する場としてスタートしました。その多くは地域の農家が自主的に関わっており、「自分たちの手で売る」ことに意味と誇りを持っています。農業者の販路拡大と所得向上、地域内流通の活性化という点で、より「農の現場」に近い存在と言えるでしょう。

 

そこに体験と共感はあるか?

 

かつて直売所の強みといえば、「安い」「新鮮」「顔が見える」でした。確かにこれらは現在も魅力ではあります。しかし、今や地元スーパーも産地直送の野菜を取り扱い、物流インフラの進化によってネット通販でも朝どれ野菜が自宅に届く時代になっています。つまり、直売所のかつての「三大特長」は、もはや差別化要因ではなくなりつつあるのです。

 

では、どうすれば選ばれる存在になれるのか。その鍵は「体験」と「共感」にあります。農産物を通して、「誰が」「どんな想いで」「どんな物語をもって」つくったのかが伝わる場こそ、直売所の最大の武器なのです。

 

たとえば、ただ野菜を売るだけでなく、収穫体験や調理教室を通して「食と農のつながり」を感じてもらう。加工品にストーリーを添えて「この味の裏に、どんな家庭の味や地域文化があるのか」を伝える。こうした体験価値を生み出すことで、直売所は「ただの販売所」から「訪れる目的地」へと進化できます。

 

選ばれる直売所になるために

 

1. 顧客を「観光客」ではなく「関係人口」に

多くの直売所は観光客に依存しています。しかし、いま注目すべきは「関係人口」です。関係人口とは、地域外に住みながら、継続的にその地域と関わりを持つ人々のことです。

たとえば、季節ごとに必ず訪れてくれるリピーター、SNSで生産者とやり取りするファン、ECで定期的に注文する遠方顧客など。「一度だけの旅人」ではなく、「定期的に通う仲間」をいかに増やすか。この発想の転換が、持続的な直売所運営には欠かせません。

 

2. 「加工品」が魅力を倍増させる

地元産の野菜を用いたジャムや漬物、ドレッシングなどの加工品は、保存性とギフト性に優れ、客単価を上げる役割を果たします。加えて、地域の味や文化を伝える手段にもなり、遠方客への「持ち帰りたくなる土産」としての価値も高まります。

このとき重要なのは、加工品にも「誰がつくっているのか」「なぜこの味なのか」といった背景を丁寧に伝えることです。単なる商品ではなく「語れる商品」を目指すことが求められます。

 

3.「野菜の売り方」を変える

野菜はすべて並べて売るものと思っていませんか? しかし、たとえば「今夜の晩ごはんセット」として、レシピ付きの野菜詰め合わせを販売すれば、忙しい共働き世代にも刺さる提案になります。

さらには「こどもが食べやすい野菜セット」や「糖質オフセット」など、ライフスタイルに寄り添った“目的提案型のセット販売”に進化させることで、販路と顧客層を広げることができます。

 

地域と共に育つ商い

 

農産物直売所は、ただの農産物販売所ではありません。それは、地域の誇りと文化を発信し、都市と農村をつなぐ最前線の現場です。そこに求められるのは、「誰のために、何のために商いをするのか」という問いに対する、明確な答えです。

 

農家が主役となり、自らの言葉で商品を語り、お客様と絆を育む場。それこそが、これからの農産物直売所のあるべき姿です。

 

「安いから売れる」の時代は終わりました。「あなたから買いたい」と言ってもらえるような商いこそ、未来をつくる道です。

 

地域に根を張り、顔の見える関係を育みながら、誇りと覚悟を持って商いを楽しむ。その先にこそ、選ばれ続ける農産物直売所の未来があるのです。

 

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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