笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

「これは完成だ」と思った瞬間、商売は静かに衰退を始めます。

 

一例を挙げましょう。数年前、日本中に「高級食パン」ブームが巻き起こりました。一本800円、1000円という価格でも飛ぶように売れ、次々と専門店がオープンしました。しかし多くの店は“ブームの勢い”に乗るばかりで、商品や体験を磨き続ける努力を怠りました。その結果、お客様はすぐに飽き、ブームは急速にしぼみ、閉店が相次ぎました。

 

つまり「完成した」「これで十分」と思った瞬間に、衰退のカウントダウンが始まるのです。お客様は常に変化を求めています。だからこそ、商人は「改良」をやめてはならないのです。

 

そのことを誰よりも体現しているのが、ユニクロです。世界的ブランドへと成長した背景には、ヒット商品を「完成品」にせず、常に改良を続ける姿勢がありました。

 

ヒートテック
──“薄いのに暖かい”から“暮らしを変える道具”へ

 

2003年、東レとの共同開発で誕生したヒートテックは「薄いのに暖かい」という驚きで冬のインナー市場を塗り替えました。発売初年度から爆発的に売れましたが、ユニクロは決して満足しませんでした。

 

お客様の声を徹底的に集めると、「屋外で長時間働く人にはまだ物足りない」「もっと北国向けのものが欲しい」というニーズが浮かび上がります。そこで開発されたのが「極暖」、さらにその上を行く「超極暖」です。極暖は通常ヒートテックの1.5倍、超極暖は2.25倍の保温力を備えながら、着ぶくれしにくいように繊維や編み方を工夫しました。

 

加えて改良は保温性だけではありません。肌触りを柔らかくする、静電気を抑える、汗を素早く乾かす──細かな改良を毎年重ねてきました。さらにカラーバリエーションやデザインを増やし、「下着」ではなく「見せられるインナー」へと位置づけを進化させていったのです。

 

いまやヒートテックはインナーの枠を超え、タイツ、靴下、ネックウォーマー、毛布といった生活全般に広がるブランドとなりました。「昨日より暖かく」「去年より快適に」進化し続けるからこそ、20年以上も冬の定番であり続けているのです。

 

 

エアリズム
──“涼しい下着”から“呼吸する生活必需品”へ

 

2012年に登場したエアリズムも、発売当初は「夏でも蒸れにくい機能性インナー」として脚光を浴びました。しかしユニクロの取り組みはそこで終わりません。

 

素材メーカーとの共同研究を通じて、吸汗速乾、通気性の向上、接触冷感、抗菌防臭などの機能を次々と追加しました。インナーに限らず、カットソー、ポロシャツ、ブラトップなど日常着としても使えるように展開を広げ、ファッションと快適さを両立させたのです。

 

さらに象徴的だったのはコロナ禍での「エアリズムマスク」。夏でも快適に使えるマスクが欲しいというお客様の声に即座に応え、生活必需品の分野にまで踏み込みました。発売直後は行列ができるほどの大ヒット。まさに「お客様の声とスピード対応」が新市場を切り拓いた例でした。

 

近年ではパジャマやベッドシーツにもエアリズム素材を応用し、睡眠時の不快感を和らげる商品として支持を集めています。つまりエアリズムは「夏の下着」という枠を超え、暮らし全体を快適にする「呼吸する生活必需品」へと成長したのです。

 

改良は大企業だけのものではない
──小さな蕎麦屋の「小さな改良の積み重ね」

 

では、大企業だけが改良を続けられるのでしょうか。そんなことはありません。小さな商店でも、同じ発想で繁盛を続けている例は数多くあります。

 

たとえば、私が取材した地方の小さな蕎麦屋の話です。そこは昔ながらの手打ちそばを出す、地元に根ざした店でした。しかし店主は「うちのそばはこれで完成」とは考えませんでした。

 

お客様から「もう少し辛味の効いた大根おろしが欲しい」という声があれば、農家に相談して辛味大根を仕入れ、季節限定の「おろしそば」として提供しました。「天ぷらを軽めに揚げてほしい」という声があれば、油の温度や粉の配合を微調整して応えました。

 

さらに夏場には氷を敷いた竹ざるに盛り付けて涼しさを演出し、冬場には薬味に柚子皮を添えて香りを楽しんでもらう工夫をしました。

 

大きな設備投資をしたわけでも、新商品を派手に打ち出したわけでもありません。小さな改良の積み重ねが「この店はいつ行っても新しい発見がある」とお客様に感じさせ、常連客が友人を連れてくる好循環を生み出していました。

 

商人にとっての学び
──改良は繁盛の持続装置である

 

ユニクロの取り組みからも、蕎麦屋の取り組みからも学べるのは、改良は単なる機能向上ではなく「繁盛を持続させる装置」だということです。「売れているから大丈夫」ではなく、売れているからこそ改良するのです。

 

改良は大掛かりな新開発だけではありません。肌触り、使い勝手、見せ方など“小さな工夫”の積み重ねが大切です。

 

また、改良は商品だけでなく、サービス、売場、接客にも当てはまります。和菓子屋が包装紙を季節ごとに変える、飲食店が定番メニューに「期間限定トッピング」を加える──そうした小さな改良こそ、お客様を飽きさせない最大の工夫です。

 

進化をやめた店から消えていく

 

ユニクロが世界的ブランドとなった理由は、ヒット商品を「完成品」と見なさず「育て続けた」ことにあります。ヒートテックもエアリズムも、毎年進化しているからこそ「今年も買おう」とお客様に思ってもらえるのです。

 

一方で、高級食パンブームのように「売れている今」に安住すれば、あっという間にお客様に飽きられ、姿を消すことになります。

 

商人の仕事は、売ることだけではありません。お客様と共に商品を育て、店を育て、信頼を育むこと。今日の小さな改良が、明日の繁盛を約束するのです。そして、それが皆の未来を良くするのです。

 

 

商業思想家、倉本長治は「商いは何のためにするのか?」と問われると、いつも次のように答えていたと言われています。

 

商売は今日のものではない。
永遠のもの、
未来のものと考えていい。
それでこそ、
本当の商人なのである。
人は今日よりも、
より良き未来に生きねばいけない。

 

➡今日の問いかけ
あなたの店の「定番商品」や「定番サービス」。それを今年さらに良くする一手は何でしょうか?

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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