笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

2025年、焼肉店の倒産件数は1~8月で32件に達し、年間で過去最多となった2024年に迫る勢いです。零細店だけでなく、中規模店も倒産しており、負債1億円以上の倒産も過去最高を記録しました。焼肉店経営の現場は、いままさに厳しい競争とコスト高騰の狭間で揺れています。

 

 

その最大の要因が、原材料費の上昇です。帝国データバンクによれば、人気部位であるロイン・かた・ばらなどの輸入牛肉は、2020年と比べ2025年4~6月に7割超の値上がりを記録しました。野菜類も同様に値上がりし、焼肉1人前の総コストを示す「焼肉物価」は3割以上上昇しています。

 

しかし、消費者の節約志向や競合店との価格競争により、十分な値上げは容易ではありません。2025年4~6月の焼肉メニュー価格は、2020年比でわずか1割程度の上昇にとどまっています。リーズナブルな価格を強みにする中小焼肉店は、値上げすれば客離れ、値上げしなければ利益消失というジレンマに直面しています。

 

たとえば北海道の「北海道焼肉プライム」を運営していたこがね社は、インバウンド需要の回復にもかかわらず、原材料費や人件費の負担増、さらにコロナ融資返済の開始が重なり、2025年7月に破産に至りました。中心地駅前で積極的な出店を行っても、安定収益を確保できず、設備投資の借入負担が経営を圧迫する例は少なくありません。

 

 

原価高騰時代の戦略的価格政策

 

こうした厳しい状況を乗り越えるには、単純な値上げだけでなく、戦略的な価格政策が不可欠です。具体的なアプローチは以下の通りです。

 

1. メニュー構成の見直しで原価をコントロール
人気部位の価格が上昇しても、他の部位や代替食材を組み合わせることで原価を抑えられます。例えば、牛ロースを使用したメニューを基本にしつつ、鶏肉や羊肉を組み合わせた「ミックス焼肉セット」を導入する方法があります。これにより、客単価を維持しながら原価上昇の影響を分散できます。

 

2. 付加価値で価格を正当化
価格だけで勝負するのではなく、「体験」や「品質」で価値を伝えることも重要です。例えば、店内の焼き方ガイドやスタッフおすすめの食べ方提案、地元野菜や希少部位のストーリーを伝えることで、客は「この価格なら納得」と感じます。付加価値を訴求することで、値上げの際の顧客理解も得やすくなります。

 

3. 段階的な値上げと透明性のある情報発信
一度に大幅な値上げを行うと客離れにつながります。たとえば、1人前の焼肉セットの価格を500円単位で段階的に調整し、その理由を店内掲示やSNSで伝える方法があります。「原材料費高騰によりやむなく調整」という説明は、理解と共感を得やすくなります。

 

実践例:中小焼肉店の価格シミュレーション

 

仮に、原材料費高騰前の「焼肉セット」原価が1,200円、販売価格が2,000円(原価率60%)だったとします。原材料費が3割上昇した場合、原価は1,560円となり、従来の販売価格では利益はわずか440円に減少します。

 

対策1:メニュー構成を見直す
牛ロースセット 1,560円 → 1,800円に値上げ(利益240円増)
鶏・羊ミックスセット 原価1,300円 → 価格1,800円(利益500円確保)

 

対策2:付加価値で価格を正当化
「地元産野菜+希少部位入り」セット 2,000円
原価1,500円、利益500円
「体験価値」を強調することで客の納得を得る

 

対策3:段階的値上げ
第1段階:1,900円に値上げ
第2段階:2,000円に値上げ
原材料費や人件費の変動に合わせて柔軟に調整

 

このように複数の施策を組み合わせることで、原材料費高騰時でも利益を確保しつつ、顧客離れを防ぐことが可能です。

 

焼肉店経営者へのメッセージ

 

焼肉店経営は、原材料高騰や競争激化という外部環境に大きく左右されます。しかし、価格政策を戦略的に設計し、メニュー構成・付加価値・段階的値上げの三本柱を意識することで、中小店でも生き残りの道はあります。

 

大手チェーンが牛肉以外のメニューや値上げで対応する一方、個人店や中小店は個性と柔軟な戦略で顧客の心をつかむことが肝要です。原材料高騰という困難な時代だからこそ、「価格×価値」のバランスを再設計し、顧客に納得してもらえる経営を実践することが、店の未来を守る鍵となるでしょう。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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