「成果」と聞くと、多くの経営者は売上や利益、客数などの数字を思い浮かべます。しかし、店舗経営において本当に重要なのは、数値に表れない“関係性”や“心の通い合い”です。リピーターの増加、紹介による新規来店、顧客からの感謝の言葉――こうした“見えない成果”こそが専門店の本質であり、持続的な繁盛を生む力となります。
数字を超えた真の成果の意味
東京・浅草の料理道具専門店「飯田屋」は、その典型例です。創業から100年以上の歴史を誇る同店は、価格競争に巻き込まれることなく、「本当に必要な道具を届けること」を成果として捉えています。
しかし、最初からそうではありませんでした。飯田屋6代目の飯田結太氏が事業承継間もないころ、商品知識も乏しかった当時は、「安くすればお客様はもっと来てくれるはずだ」と考え、料理用品店がひしめく合羽橋道具街で最も安い店を目指して努力しました。ところが、常連客からは「おまえの代になってから質の悪いものを売るようになった」と見放され、従業員たちも「この店には未来がない」と相次いで離れていったのです。結果、飯田屋は廃業寸前の状況に追い込まれました。
そんなある日、料理人の顧客から「もっと柔らかく大根がすれるおろし金を探してほしい」という依頼を受け、200種類以上のおろし金をサンプルとして仕入れ、一つひとつ大根ですって試した末に応えられる逸品を見つけました。料理人からかけられた「ありがとう」という言葉は、売上以上の価値を持つ成果として彼の胸に刻まれました。
さらに、飯田屋のオリジナル商品である「エバーピーラー」の開発も、専門店ならではの成果を象徴するエピソードです。一般的なピーラーでは皮むきがスムーズにいかないことに着目した店主は、試行錯誤を重ね、刃の角度や握りやすさを徹底的に改良しました。顧客の声を直接反映させるプロセスを経て生まれたこのピーラーは、瞬く間に人気商品となり、家庭からプロの現場まで幅広く支持されました。売上数字としての成功もさることながら、顧客の「これが欲しかった」という声や、店を信頼してくれる関係性の構築こそが、飯田屋にとって真の成果であると言えます。
成果とは単なる数字ではなく、顧客との信頼関係や共感、日々の積み重ねの中に存在します。商いの強みは、価格や利便性だけではなく、こうした“人と人の関わり”にあることを、飯田屋は体現しています。

関係性を測る指標と変化の捉え方
成果を測るには、数字だけでなく関係性を意識することが重要です。来店の継続性や紹介による新規来店、顧客からの感想やメッセージはいずれも成果の証しです。「あの包丁で料理が楽しくなった」「この道具に出会えて人生が変わった」といった声は、売上データでは捉えきれない価値を示しています。
飯田屋では、売上や在庫の数字を管理するだけでなく、「誰かに紹介したくなる店か」「ありがとうと言われる店か」という非数値的成果を、スタッフ全員で日常的に共有しています。スタッフが顧客一人ひとりの要望や喜びを把握することで、日々の判断や提案に一貫性が生まれます。これにより、単なる商品販売ではなく、顧客の“料理体験”や“調理の楽しみ”を提供する専門店としての価値を高めることができるのです。
成果は一夜にして現れるものではありません。小さな変化や兆しを見逃さず、店全体で確認することが肝要です。例えば、「この店なら安心して頼める」と顧客が言った瞬間や、「この道具を使うと調理が楽しくなる」との感想、SNSで拡散された写真やメッセージも、すべて成果のサインとなります。日々の観察と記録、そしてスタッフ間での情報共有が、非数値的成果を可視化する鍵となるのです。
さらに、店舗経営では“感謝の循環”を意識することも重要です。顧客からの感謝や喜びをスタッフ全員で共有することで、店内の士気が高まり、接客や提案の質も向上します。こうした積み重ねは、リピーターや紹介を通じて新たな成果につながり、専門店の持続可能な繁盛を支えます。
このように、私たちが目指すべき成果とは、売上や利益だけでなく、「顧客との信頼関係」「心に残る体験」「共感と感謝の循環」にほかなりません。飯田屋は、価格競争に流されることなく、顧客の本当のニーズを探求し、個々の料理体験に寄り添うことで、数字を超えた真の成果を積み重ねてきました。
経営者やスタッフが日常の行動を通じて、この非数値的成果を意識し共有することが、専門店の存在意義をさらに強固にします。顧客との関係性を深め、信頼を築き、心の成果を積み重ねることこそが、数字以上に価値のある“成果”です。
飯田屋の取り組みについては飯田結太著『浅草かっぱ橋リアル店舗の奇蹟』に詳しく述べられています。効率度外視の「売らない」経営が廃業寸前の老舗を人気店に変えた理由がわかります。

次回は「私たちの計画は何か?」という問いを深掘りし、経営を志ある日常として形にする方法を考えます。







