笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

私たちの暮らしにすっかり馴染んだ「コンビニの淹れたてコーヒー」。それは2000年代初頭までは想像もできなかった革新です。

 

2011年にセブンイレブンが導入した「SEVEN CAFE」が市場を一変させ、ファミリーマートやローソンも続々と参入。豆の品質、マシンの進化、そして店舗オペレーションの効率化によって、手軽で本格的な味わいを100円台で楽しめるという「日常の贅沢」が都市にも地方にも広がりました。

 

以来、コンビニコーヒーは年間19億杯を超える巨大市場に成長。価格以上の価値を感じる消費者の支持を得て、「日本人の新しいコーヒー習慣」を築いたと言えるでしょう。

 

しかし2020年以降、その日常に変化が訪れています。各チェーンによる値上げの始まりです。下記はレギュラーサイズ(Sサイズ)の価格の変遷です。今日、セブンイレブンがレギュラーコーヒーを20円値上げ、160円となります。

 

2022年
セブンイレブン 100円から110円に値上げ
ファミリーマート 100円から110円に値上げ

2024年
セブンイレブン 110円から120円に値上げ
ファミリーマート 110円から120円に値上げ

2025年
セブンイレブン 120円から140円に値上げ(7月7日以降)
ローソン 150円から160円に値上げ
ファミリーマート120円から145円に値上げ

 

値上げが示す本質的な問い

 

値上げの理由は明確です。気候変動によるコーヒー豆の不作、円安、物流・資材費の高騰。さらに人件費の上昇が拍車をかけ、低価格を維持することが難しくなったのです。

 

では、これがもたらす影響は何でしょうか。それは「価格が上がったから買われなくなる」のではなく、「価格と品質のバランス」が、より厳しく見られるようになるということです。

 

これまで100円台という“お得感”で支持されていたコンビニコーヒーは、価格が上がった分、味・香り・飲みごたえへの期待値も上がるのです。つまり、企業側には品質維持・向上のプレッシャーが、消費者側には「選択の意識」が生まれるのです。

 

これは、私たち中小の専門店や喫茶店にとって、逆風ではなく、むしろ追い風になる可能性を秘めています。

 

差別化の土俵が再び整った

 

100円という圧倒的な価格競争力を持つコンビニコーヒーが値上げすることで、専門店との価格差は相対的に縮まります。これにより、消費者が「ほんの少しプラスして、より良い一杯を味わう」という行動を取りやすくなります。価格競争から価値競争へ――今こそ、個人店の“こだわり”が再評価される土壌が整いつつあるのです。

 

たとえば、東京都昭島市の「カフェ・ド・カルモ」は、自家焙煎による豆の新鮮な風味を守り続けています。2025年春、やむを得ず価格改定に踏み切りましたが、誠実に理由を説明し、品質を落とさず提供を続けています。顧客はその姿勢に共感し、「値段以上の価値」を感じてリピーターとなっているのです。

 

また、東京・神保町の「GLITCH COFFEE」は、ゲイシャ種をはじめとするスペシャルティコーヒーを扱い、産地の背景や抽出の技術を語ることで、一杯1,000円近い価格でもファンを獲得しています。

 

 

大切なのは、「高くても納得できる」商品と接客。そして、その背景にある物語です。

 

個人店が選ばれるための四つの視点

 

1. 価格改定の“正直な説明”
消費者は誠実な説明に耳を傾けます。「なぜ上がったのか」よりも「どんな価値を守りたいのか」を伝えることが大切です。

 

2. “体験”の提供
静かな空間での読書時間、バリスタとの会話、目の前で豆を挽く音や香り……。こうした五感体験は、コンビニには真似できません。

 

3. “学び”の場の創出
産地や焙煎、抽出技術に関するミニ講座や試飲会を開くことで、価格以上の満足を届けられます。顧客は「知っている店」に親しみを感じるものです。

 

4. “地域性”との接続
地元の食材とのペアリング、地元作家とのコラボ器具など、地域に根差した要素は、ブランド価値を高めます。

 

コンビニコーヒーの値上げは、消費者の目を「価格」から「価値」へと向け直すチャンスです。日常に根づいた一杯が、その価値を見直される今、地域に息づく小さなカフェや専門店こそが、次なるコーヒー文化を担っていく存在です。

 

必要なのは、原価高騰に耐える我慢だけではありません。「なぜ自分の一杯はこの価格なのか」を言葉と姿勢で語る力、そしてそれを支える“芯のある商い”です。

 

逆風の中でも、ひとつひとつの丁寧な行いが信頼となり、ブランドとなり、明日の来店につながります。一杯のコーヒーを通して、あなたの“商いの精神”が誰かの一日を照らすことを信じて、今日も暖簾を掲げましょう。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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