笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

欠損は社会の為にも不善と悟れ――商売十訓の第五訓は、商いにおける「赤字」の意味を根本から問い直しています。一般に欠損は経営上の問題として語られます。

 

しかし倉本長治は、それを単なる数字の問題としてではなく、「不善」と表現しました。この言葉には、商いを社会との関係の中で捉える厳しい視点が込められています。

 

では、もしドラッカーがこの一訓を読んだなら、どう考えるでしょうか。おそらく彼は「成果を上げることは社会的責任である」と言い換えるはずです。そしてこう続けるでしょう。「成果を上げられない組織は社会に対して無責任である」と。

 

ドラッカーが見抜いた「成果」の意味

 

倉本の言う「欠損」とは、単なる赤字ではありません。ドラッカーの言葉で言えば、それは“社会に対して価値を提供できていない状態”です。企業は社会の中で役割を果たすことで存在を許されています。その役割を果たせていない状態が欠損であり、それを「不善」としたのです。

 

ドラッカーは、経営において最も重要なのは成果であると説きました。努力や過程ではなく、結果として何を生み出したか。顧客にどのような価値を届けたか。それが問われます。ここでいう成果とは、単なる売上ではありません。顧客の課題を解決し、生活をより良くすることにほかなりません。その結果として数字が現れるのです。

 

一見すると、「赤字は仕方がない」と考えがちです。しかし倉本は、それを許しませんでした。なぜなら、欠損は社会に対する責任を果たしていない状態だからです。企業は人材、資金、時間といった社会資源を預かっています。それらを活かし、価値を生み出すことが求められています。その役割を果たせないことは単なる失敗ではなく、社会に対する損失でもあります。

 

ドラッカーもまた同じ視点に立っています。「成果を出せない組織は資源を浪費しているに等しい」と。だからこそ、経営には結果責任が伴うのです。

 

成果はどこから生まれるのか

 

では、成果はどのようにして生まれるのでしょうか。ドラッカーはその答えを「顧客にとっての価値を生み出すこと」と明確にしています。顧客に価値を提供できていれば、結果として売上はついてきます。逆に言えば、価値が提供できていないからこそ欠損が生まれるのです。

 

ここに、倉本の思想と重なる部分があります。欠損を単なる結果として受け止めるのではなく、その背景にある「価値提供の不足」を見つめよということです。

 

では、この考え方をどう実践すればよいのでしょうか。重要なのは欠損を避けること以上に、その原因と向き合うことです。たとえば次のような視点です。

 

・売れていない理由を顧客視点で考える
・商品や売場が本当に価値を提供できているか見直す
・顧客の声を直接聞き、改善に活かす

 

単にコストを削減するだけでは、本質的な解決にはなりません。価値を高めることで、結果として成果を生み出す。この視点が必要です。さらに、数字から目をそらさないことも重要です。日々の売上や粗利を確認し、変化に気づく。その積み重ねが経営の質を高めます。

 

「成果を出す組織」が信頼される

 

いまの時代、努力だけでは評価されません。結果として何を生み出したかが問われます。これは厳しい現実ですが、同時に明確な基準でもあります。成果を出し続ける店は、社会から信頼されます。顧客から選ばれ、地域に必要とされる存在になります。その信頼こそが次の成長を支える力となります。

 

一方で、成果を出せない状態が続けば、いずれその存在意義が問われることになります。だからこそ欠損を「不善」として捉える視点が重要なのです。

 

倉本長治は「欠損は社会の為にも不善と悟れ」と言いました。ドラッカーは「成果を上げることは社会的責任である」と言いました。この二つは、同じ本質を指しています。商いとは、社会に価値を提供する営みです。その結果として利益が生まれます。そして、その責任として成果が求められます。

 

欠損を単なる数字としてではなく、価値提供の不足として捉えること。その視点が、商いを次の段階へと引き上げます。成果を生み出し続ける店だけが社会に必要とされ続ける。その原点が第五訓にこめられているのです。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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