笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

商いとは何か。
経営とは何のためにあるのか。

 

この問いに対して、時代も国も異なる二人の思想家が驚くほど同じ答えにたどり着いています。一人は商業界創立者・倉本長治。もう一人は現代経営学の父、ピーター・ドラッカーです。

 

そこで、この二人の思想を重ねながら、これからの商いを考える手がかりを探ります。

 

倉本長治――商人の生き方を問い続けた思想家

 

倉本長治は、単なる商業指導者ではありませんでした。彼が生涯を通じて伝え続けたのは、「商売の技術」ではなく「商人のあり方」です。商業界を創設し、商業界ゼミナールを通じて全国の商人に問いかけ続けたのは、次のような根本でした。

 

・商売とは誰のためにあるのか
・利益とは何か
・商人はどう生きるべきか

 

その結晶が「商売十訓」です。一訓あたり14字、合計140字。わずかな言葉の中に、商いの本質が凝縮されています。そこに通底するのは「お客様への愛情」「商いへの真実」「結果としての利潤」という三位一体の思想です。

 

ドラッカー――経営を社会の中に位置づけた理論家

 

一方、ドラッカーは企業を「社会の公器」と定義しました。企業は利益のために存在するのではなく、社会に価値を生むために存在する。その代表的な言葉が「企業の目的は顧客の創造である」です。

 

さらに彼はこうも言いました。「利益は目的ではない。正しい経営の結果である」と。つまり、経営とは利益を追い求める行為ではなく、顧客にとっての価値を生み続ける営みであり、利益はその結果として生まれるものだという考えです。この構造は倉本の思想と見事に重なります。

 

二人の共通点――「価値」を起点とする経営観

 

倉本長治とドラッカー、その共通点は明確です。それは、商いの起点を「損得」ではなく「価値」に置いていることです。倉本は「善悪」を先に置けと説きました。ドラッカーは「顧客価値」を問い続けよと説きました。表現は違いますが、本質は同じです。

 

・何が正しいのか
・誰の役に立つのか
・どのような価値を生んでいるのか

 

この問いを抜きにした経営はいずれ行き詰まる。二人はそう断言しているのです。

 

そしてもう一つの共通点は、利益を否定せず、しかし目的ともしていない点です。利益は必要である。しかし、それは結果であって目的ではない。この順序を誤ったとき、商いは歪みます。

 

現代は、効率や成果が強く求められる時代です。コスパ、タイパといった言葉に象徴されるように「いかに得をするか」が判断の基準になりがちです。しかし、その中で見落とされがちなのが「それは本当に価値があるのか」という問いです。

 

価格競争に陥る店と長く選ばれ続ける店。その違いは、技術ではなく、この問いを持っているかどうかにあります。だからこそ今、倉本長治とドラッカーの思想が必要なのです。

 

商売十訓――140字に込められた商いの本質

 

一、損得より先きに善悪を考えよ
二、創意を尊びつつ良い事は真似ろ
三、お客に有利な商いを毎日続けよ
四、愛と真実で適正利潤を確保せよ
五、欠損は社会の為にも不善と悟れ
六、お互いに知恵と力を合せて働け
七、店の発展を社会の幸福と信ぜよ
八、公正で公平な社会的活動を行え
九、文化のために経営を合理化せよ
十、正しく生きる商人に誇りを持て

 

倉本長治が提唱した「商売十訓」は、もともと1961年の「商業界ゼミナール誓詞」をもとに、唱和しやすいよう14字に整えられたものです。十の訓は、それぞれ独立しているようでいて、実は一つの思想体系を成しています。

 

たとえば第一訓「損得より先きに善悪を考えよ」には、商いの出発点が示されています。第二訓では「創意を尊びつつ良い事は真似ろ」と続き、成長の方法が示されます。そして最後には、「正しく生きる商人に誇りを持て」と結ばれ、商人の生き方へと昇華されていきます。つまり商売十訓とは、単なる心得ではなく、商人の成長と完成を導く道筋そのものなのです。

 

もしドラッカーが商売十訓を読んだら

 

倉本長治の商売十訓。そして、ピーター・ドラッカーの経営学。この二つを重ねて読むと、そこに浮かび上がってくるのは、時代や国境を超えて通用する「経営の原理」です。

 

一方は、日本の現場から生まれた商人の哲学。もう一方は、世界中の企業を分析し体系化された経営理論。まったく異なる背景を持ちながら、両者が指し示している方向は驚くほど一致しています。それは、「商いとは何のためにあるのか」「利益とは何か」「顧客とは誰か」という、経営の根本に関わる問いです。

 

もしドラッカーが商売十訓を読んだなら、どう解釈するでしょうか。おそらく彼は、その一つひとつの言葉を「顧客価値」「社会的責任」「成果」という視点から読み解くはずです。そして私たちはそこから、単なる精神論ではない、現代にも通用する実践のヒントを見出すことができます。

 

商売十訓は、わずか140字に凝縮された言葉です。しかし、その一行一行には、日々の判断を変え、行動を変え、やがて店の未来を変える力が宿っています。それをドラッカーの視点で読み直すことは、単なる解釈ではありません。自らの商いを見つめ直し、「何を基準に判断しているのか」を問い直す機会になるはずです。

 

そこで、商売十訓の一つひとつを取り上げ、ドラッカーの経営観と重ねながら丁寧に読み解いていきます。理念を理念のままで終わらせるのではなく、現場でどう活かすかという視点で掘り下げていきます。

 

次回は、第一訓「損得より先きに善悪を考えよ」から商いの原点に立ち返り、日々の判断の基準を見つめ直すところから始めていきましょう。その問いに向き合うことこそが、これからの時代に選ばれる商人への第一歩となるのです。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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