「人手不足だから」
「自分がやるしかないから」
そう言って、朝から晩まで売場に立ち、仕入れも帳簿もクレーム対応も一人で抱え込む店主は少なくありません。責任感が強く、真面目で、店を大切に思っているからこそ、つい無理をしてしまう。その姿は一見すると美しく、立派にも見えます。
しかし、ふと立ち止まって考えてみたいのです。その頑張りは本当に店を強くしているのか。それとも、気づかぬうちに店を弱らせてはいないか。
拙著『店は客のためにあり店員とともに栄え店主とともに滅びる』のタイトルにある「店主とともに滅びる」という一節は、決して脅しの言葉ではありません。むしろ、店を長く続けるための、やさしく、しかし厳しい警告なのです。
「いい店主」がすべてを抱え込んだ結果
地方都市で長年愛されてきた、ある専門店の話です。店主は創業以来、売場の要。商品の説明は誰よりもうまく、常連客の好みも家族構成も把握していました。店員は数名いましたが、最終判断はすべて店主。クレーム対応も、新商品導入も、価格の決定も、「自分がやったほうが早い」と一人で背負ってきました。
結果、どうなったか。店主が体調を崩し、数週間店に立てなくなったとき、売場は一気に静まり返りました。店員は判断できず、常連客は「今日はあの人いないの?」と不安そうに帰っていく。売上は急落しました。
この店が弱くなった原因は、店員の能力不足ではありません。「店主がいなければ回らない構造」を、長年かけてつくってしまったことにありました。
「店員とともに栄える」とは任せることから始まる
「店員とともに栄える」とは、仲良くすることでも、優しくすることでもありません。それは、役割と判断を渡す覚悟を持つことです。
先ほどの店では、回復後、店主が一つだけ決めたことがあります。「自分がいなくても、売場が動く状態をつくる」。売場づくりの意図を言葉にし、価格判断の基準を共有し、常連対応も「自分の代わり」ではなく「あなたなりでいい」と任せました。最初は戸惑いもありましたが、次第に店員の表情が変わっていきます。
すると不思議なことに、客の反応も変わりました。「最近、この店雰囲気いいね」「誰に聞いても、ちゃんと答えてくれる」と口々に言います。店主が前に出続けることで守っていた店は、一歩引くことでようやく強くなり始めたのです。
「店主とともに滅びる」は、未来を守るための言葉
「店主とともに滅びる」という言葉は、「店主がいなくなったら終わる店になっていないか?」という問いを、私たちに投げかけています。
店主が倒れたら終わる。
引退したら続かない。
判断できる人が一人しかいない。
それは努力不足ではなく、構造の問題です。店は、店主の人生そのものではありません。店主の想いを土台にしながらも、客と、店員と、ともに育ち、続いていく存在です。
自分がやらない勇気。任せる不安に耐える覚悟。それは怠けでも後退でもなく、店を未来へ手渡すための、立派な経営判断です。
今日、少しだけ手を離してみる。一つだけ、判断を渡してみる。その小さな一歩が、「ともに栄える店」への確かな道になります。






