笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

「それ、タイパ悪くないですか?」
「そこまで手をかける意味、ありますか?」

 

こうした言葉が当たり前のように交わされる時代になりました。タイパ(時間対効果)、コスパ(費用対効果)は現代の共通言語です。忙しい現場、限られた人手、上がり続けるコストのなか、効率を求めるのは当然の流れでしょう。

 

しかし私は、現場を歩くたびに考えさせられます。「効率を高めたはずなのに、なぜか元気がなくなった店」が、あまりにも多いのです。

 

タイパ・コスパに走りすぎて失敗した店の話

 

ある地方都市の飲食店。かつては、常連客でにぎわい、店主と客が言葉を交わす、あたたかな店でした。ところが、人手不足と原価高騰をきっかけに店は大きく舵を切ります。

 

・注文はすべてタブレット化
・メニュー数を半分以下に削減
・会話は極力せず、回転率を最優先
・ベテランスタッフを減らし、コストの低い人材に入れ替え

 

数字は確かに改善しました。タイパも、コスパも、見事なまでに向上したのです。

 

しかし、その数年後。「味は悪くないけど、もう行かなくなった」という声が増え、客足はじわじわと減っていきました。理由は明確でした。その店である意味が消えてしまったのです。効率を追い求める中で、顔なじみとの会話、「いつもの?」という一言、店主の気配といった“ムダに見える時間”がすべて削ぎ落とされていました。

 

タイパ・コスパは判断を速くし、ムダを見つける力を持っています。しかし同時に、人との関係を切り落とす刃にもなります。商いは、商品だけで成り立っているわけではありません。「誰から買うか」「どんな空気の中で買うか」が選ばれる理由になります。

 

効率だけを物差しにすると、「会話は非効率」「迷いはムダ」「寄り道は不要」となってしまいます。結果、商いが“作業”に変わってしまうのです。

 

ムダパを生かしている店の話

 

一方で、まったく逆の選択をしている店もあります。

 

人口減少が進む地方の小さな衣料品店。決して立地がいいわけでも、価格が安いわけでもありません。この店の特徴は、一言で言えば「時間をかける」こと。その店では、用もないのに立ち寄る客と店主が話し込み、売れ筋ではない商品を理由を添えて丁寧に説明し、新人にはあえて遠回りなやり方を経験させます。

 

一見すると、タイパもコスパも悪い。けれど、この店には語ってくれる客がいます。「あの店主に会いに行く」「話を聞くと、背中を押される」という声がクチコミとなり、次の客を連れてきます。ムダに見える時間は、信頼を育て、物語を生み店の存在価値を深めていたのです。

 

ムダパとは「未来への投資」である

 

ムダパ(無駄対効果)とは、今すぐ数字にならない行為が、どれだけ未来を豊かにするかという視点です。

 

・すぐに売上にならない会話
・失敗を含んだ試行錯誤
・効率を度外視した人材育成

 

これらは短期的には非効率です。しかし長い時間軸で見ると、他では代替できない強さになります。価格競争に巻き込まれない理由、多少高くても選ばれる理由、それらはムダパの中で育っています。

 

ここで大切なのは、「ムダを増やせ」という話ではありません。繁盛店はむしろ厳しい。・惰性の会議、目的のない忙しさ、誰の役にも立たない作業など、削るべきムダは徹底的に削ります。

 

その一方で、人と向き合うムダだけは絶対に手放しません。この選別眼こそが商人の腕です。

 

三つの物差しを持つ商人へ

 

これからの商いに必要なのは、タイパか、コスパか、ムダパか、という二者択一ではありません。短期の改善にはタイパ、経営の安定にはコスパ、未来の繁盛にはムダパという三つの物差しを持ち、場面ごとに使い分ける力が問われます。

 

最短距離を行かなくてもいい。回り道をあえて選んでもいい。ムダを許すとは、目先の数字より人と未来を信じることです。

 

今日、ほんの少しだけ「これはムダかもしれない」と思うことに時間を使ってみてください。そのムダが数年後、あなたの店を支える最大の資産になっているかもしれません。商いは効率だけでは育たない。だからこそ、ムダパを戦略として生かす商人でありたいのです。

 

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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