朝の開店準備の時間。シャッターを上げながら、店主は今日のシフト表をもう一度見直します。
本来3人で回すはずの売場は、今日も2人。急な欠勤が続き、代わりを頼める人はいません。レジに立ちながら、品出しをし、問い合わせにも応じる。忙しさは増す一方なのに、「いらっしゃいませ」の声に、どこか余裕がありません。
「人がいれば、もっと丁寧にできるのに」と思いながらも、採用は思うように進まず、賃上げの余力もない。結果として、いちばん頑張っている店員ほど疲れ、辞めていく――。今、日本各地の小売業の現場で、同じ光景が静かに繰り返されています。
こうした現実を、数字として突きつけたのが東京商工リサーチの報道です。2025年、「人手不足」を直接の要因とする倒産は過去最多を更新しました。しかも特徴的なのは、赤字ではなく、仕事も売上もある企業が倒れているという点です。
人が足りないのではない。人を支えきれない構造のまま、時代が進んでしまったのです。

店員とともに栄えているか
こうした状況下で、改めて重みを増しているのが、「店は客のためにあり、店員とともに栄える」という倉本長治のという言葉です。これは美しい理念であると同時に、これからの時代を生き抜くための極めて現実的な経営条件でもあります。
なぜなら、顧客に価値を届けるのは、最終的には「人」だからです。価格や立地、商品力だけで選ばれる時代は終わりました。今、顧客が選んでいるのは、「この人に会いに来たい」「この店なら安心して任せられる」「ここで買う理由がある」という、人を介した信頼と体験です。
その価値を生み出す店員を、「人件費」「コスト」として扱う構造のままでは、人手不足時代を乗り越えることはできません。
縮小ではなく再設計
東京商工リサーチの報道を読み解くと、倒産に追い込まれた企業の多くに共通するのは、「忙しいが、利益が薄い」「人を増やすほど、苦しくなる」という構造です。つまり問題は「人が足りない」ことではなく、人を雇い、育て、報いるだけの粗利益を生み出せていないことにあります。
だからこそ今、必要なのは売上拡大ではありません。粗利益を生む仕事への集中です。
・この仕事は、本当に付加価値を生んでいるか
・誰のための仕事なのか
・店員の時間と力は、価値の高い仕事に使われているか
こうした問いを一つひとつ点検し、粗利の出ない仕事、誇りを持てない仕事から、勇気を持って手を引く。それは縮小ではなく、再設計です。
三位一体の商い
店が付加価値を生み、
店員がその価値を担い、
顧客がそれを喜んで受け取る。
この三位一体が回り始めたとき、店は強くなります。価格を下げなくても選ばれ、人が定着して育ち、利益が残り、さらに人に投資できる――こうした企業に人手不足は無縁です。
人手不足とは、人を大切にできない構造が淘汰される時代です。裏を返せば、人を活かす構造をつくれた店には、まだ大きな可能性があります。
東京商工リサーチの数字を、「他人事の倒産統計」で終わらせてはいけません。今日一日、売上を見る前に、ぜひ自問してみてください。この店は、店員とともに栄える設計になっているだろうか、と。その問いに向き合うことこそが、人手不足時代を超えていく、確かな第一歩になります。







