「人数が多ければ多いほど、仕事は早く終わる」――
そう考えがちですが、現実は必ずしもそうではありません。心理学者マクシミリアン・リンゲルマンが提唱した「リンゲルマンの法則」は、この直感を覆します。彼は綱引きの実験を行い、人数が増えるほど一人あたりの力の発揮が低下する「社会的手抜き」の現象を明らかにしました。
商いの現場でも同じです。スタッフが増えると一人あたりの責任感が薄れ、「誰かがやるだろう」と他人任せになりがちです。人数が多いほど安心する一方で、実際の力は弱まる――これがリンゲルマンの法則の警鐘です。
人数が増えるほど曖昧になる責任
茨城県にある地方都市の小売店での出来事です。週末セールの準備でスタッフ全員が売場づくりに動員されました。しかし、結果は棚の乱れや値札の付け忘れが目立ちました。なぜか。責任が分散し、「誰かがチェックしているだろう」と思い込んでいたのです。
店長は翌週から改善策を導入しました。準備作業を「担当ごと」に区切り、POPの設置、在庫補充、通路整理などを個別に割り当て、完了したら名前を記録する方式に切り替えました。すると責任感が生まれ、ミスは激減。売場は整い、結果として売上も前回比で12%アップしました。
この事例は、人数を増やしてもそのままでは成果は上がらないことを示しています。むしろ役割を明確に分担することで、一人ひとりの力が発揮され、チーム全体が強くなるのです。
人が増えると力が弱まる?
リンゲルマンの法則は、協働の仕組みをどう設計するかを教えてくれます。
1.役割を明確にする
誰がどこを担当するのかをはっきりさせることで、責任の所在が見える化されます。
2.成果を見える化する
作業が終わったらチェックリストや記録表で共有することで、達成感と責任感が育ちます。
3.小さな単位でチームを動かす
大人数に一斉に指示するより、少人数のグループごとに責任を持たせる方が機能します。
4.リーダーを立てる
それぞれのグループに責任者を置くことで「自分がまとめなければ」という意識が働きます。
このように「分担と見える化」を工夫することで、人数が増えても力を失わず、むしろ一人ひとりの力を引き出すことができます。
最初の一歩が二歩目に続く
リンゲルマンの法則は、「人数が増えると力が薄れる」という負の側面を示しています。しかし視点を変えれば、「責任の所在をはっきりさせれば、人数が増えても力は発揮できる」という学びにもつながります。今日からできる第一歩は何でしょうか。
・一つの作業を「誰がやるのか」をその場で決める
・終わったら名前を残すチェック欄を用意する
・少人数単位で動く仕組みを取り入れてみる
この小さな工夫で、責任感が芽生え、チームの力は一段と強まります。やがてお客様から「この店はいつも整っている」「気持ちよく買い物ができる」と評価され、自然にクチコミも広がっていきます。
商人にとって大切なのは、人数に頼ることではなく、一人ひとりの力をどう発揮させるかです。リンゲルマンの法則を意識すれば、「人が多いから大丈夫」という思い込みを超え、「人が多いからこそ仕組みが必要だ」という発想に変わります。その気づきが、あなたの店の力を引き出し、繁盛につながるのです。







