笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

「商売とは、人を幸せにするためにある」と繰り返し説いたのは、商業界主幹として多くの店を導いた経営思想家、倉本長治です。利益を目的にするのではなく、人や地域を豊かにすることこそが商いの本義――。その信念は、時代を超えて受け継がれてきました。現代において、この思想を最も体現している企業の一つが「無印良品」を展開する良品計画でしょう。

 

無印良品が誕生したのは1980年。消費社会が華やかさとブランド競争に沸いていた時代に、創設者の堤清二はあえて「無印」を掲げました。余計な装飾やロゴを排し、素材と機能だけで暮らしに寄り添う「生活価値」を届けることを選んだのです。

 

 

その商品は、作り手の自己主張を極力消し、使い手の暮らしの中で完成していきます。“つくる”ではなく“なる”。顧客とともに育つ文化こそ、世界に広がった無印良品を支える根です。

 

さらに無印良品は、経営の中心を「現場」に置きました。店長やスタッフが地域の声を直接経営に反映し、店づくりを通じて街を活性化させていく。地方出店では、店が開くことで周辺に新しい店が生まれ、人が集まり、街が変わる。商いが地域社会そのものを動かす力となるのです。

 

その背景には「現場が株主」という経営手法であり、思想があります。利益追求のための短期的な数値より、現場が実感する暮らしの価値を優先する――これが成熟社会に向かう時代への同社の確かな答えでした。

 

 

倉本長治が遺した文章から選んだ「倉本長治先生語録十選」は、良品計画顧問の金井政明さんが社員に配布するほど重んじられています。「損得より善悪が先」「儲けは目的ではない」「小さな店こそ」と名づけられた短文は格好のよい標語ではありません。商いを志す者が日々の判断に迷ったとき、どちらを選ぶべきかを示す実践の指針です。

 

たとえば「損得より善悪が先」は、目先の利益よりも信頼を選ぶ勇気を促します。「小さな店こそ」は、地域で誇りをもって働く商人こそが街をつくるという確信です。これらの思想があるからこそ、無印良品は“日本一有名なノーブランド”として人々の心をつかみ続けているのでしょう。

 

今日、AIや自動化が進み、効率だけが優先される時代だからこそ、人に投資し、中間層を厚くする経営の大切さが問われています。金井さんは「幸せとは役に立てている時間」と語ります。人が誇りをもって働き、役に立てていると実感できること。これこそが社会を安定させ、事業を持続させる最大の条件だと。

 

 

オムロン創業者・立石一真さんの言葉を借りれば、工業社会、消費社会、情報社会の次に来るのは「自然(じねん)社会」。人と自然、人と人が調和しながら暮らす社会へ進むべきだという展望は、倉本長治が説いた「商売は人間を幸せにするための営み」という信念と深く響き合います。

 

商いにおける思想とは、事業の規模や業種にかかわらず、未来を切り拓く羅針盤です。それがある店は、顧客からの信頼が積み重なり、社員が誇りを持ち、どんな社会変化にも揺らぎません。反対に思想を欠いた商売は、どれほど一時的に成功しても、やがて潮が引くように衰えていきます。

 

無印良品と倉本長治――二つの軌跡が教えてくれるのは、商いを続けるとは「どんな未来を信じ、どんな価値を届けるか」を問い続けることです。利益を超え、人と地域を幸せにする覚悟こそ、次の時代を照らす灯。あなたの店、あなたの事業は、その灯をどのように掲げますか。その問いに向き合うことが、商人として歩む第一歩なのです。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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