笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

「売上が伸びれば、それで成功なのか?」
「企業価値が高まれば、すべてが解決するのか?」

 

2025年8月、日本マクドナルドが実施した「ハッピーセット × ポケモンカード」のキャンペーンは、こうした問いを私たちに突きつけました。限定カード欲しさに起きた転売目的の大量購入と食品廃棄、SNSで拡散された混乱の光景は、経営の在り方そのものを揺さぶる出来事でした。これは単なるキャンペーンの失敗ではなく、「企業価値偏重の経営」が時代錯誤になりつつあることを如実に示す事例なのです。

 

企業価値偏重の限界と露呈したギャップ

 

キャンペーンの目的は明らかに“話題化・売上アップ”でした。特製カードは子どもだけでなく大人も巻き込み、爆発的な人気を呼びました。しかし、その裏側では、転売目的の大量購入者が横行し、食べ物が廃棄される光景や混乱する店舗の様子がSNSで拡散。マクドナルドは謝罪と販売期間短縮を発表しましたが、火種は消えず、ブランドイメージに深い傷を残しました。

 

問題の根底には、「企業価値=売上や株価」と狭義にとらえる発想があります。日本マクドナルドの経営理念には「QSC&V(品質・サービス・清潔さ・価値)」や「長期的・安定的な成長」が掲げられていますが、今回の施策はそれと矛盾しました。理念と現実の乖離が露呈したのです。

 

本来、ハッピーセットは「子どもたちに笑顔を届ける」ことが存在意義でした。ところが、結果として「子どもの笑顔より大人の転売需要を優先した」と見なされ、顧客や社会の信頼を損なってしまったのです。

 

いま求められる「パーパス経営」とは何か

 

では、何が欠けていたのでしょうか。答えは「パーパス(存在意義)」です。パーパス経営とは、企業の社会的存在意義を明確にし、それを経営の軸とすること。売上や株価の向上は結果であり、目的ではありません。社会に対して「なぜこの企業は存在するのか」を示し、その実現を経営と事業の中心に据えることこそが、パーパス経営です。

 

たとえばファーストリテイリングが掲げる「服を変え、常識を変え、世界を変える」というシンプルな言葉もパーパスと言っていいでしょう。同社の驚異的な成長はパーパス追求の結果です。このように、パーパスを掲げることで得られる効果は少なくありません。

 

・ステークホルダーからの共感と支持の拡大
・社員のエンゲージメント向上
・意思決定の一貫性とスピードアップ
・社会課題と事業を結びつけたイノベーション創出

 

今回のマクドナルドの騒動で問われたのは、まさに「Why(なぜ存在するのか)」でした。カードによる一時的な売上増ではなく、親子で安心して食事を楽しみ、健やかな時間を過ごす「場」を提供すること。これがハッピーセットの本来のパーパスであり、社会から求められている役割なのです。同社のそれはパーパスから外れたものでした。

 

パーパス経営の実践に向けた道筋

 

パーパス経営は理想論ではなく、具体的な実践によって初めて意味を持ちます。その実現には、以下の道筋が有効です。

 

1.存在意義を明文化する
「私たちは誰に、どんな価値を提供するのか」を明確に言葉にすることが第一歩です。マクドナルドであれば「子どもの成長を応援し、家族の絆を育む場を提供する」といった形で、顧客の生活に直結する表現が望まれます。

 

2.顧客体験をパーパスに基づいて設計する
顧客が体験を通じて「この企業の存在意義」を感じられるようにすることが重要です。例えば、景品に頼るのではなく「親子で食や遊びを学べる体験キット」をセットにすることで、笑顔と学びを両立できます。

 

3.社員教育と現場行動に結びつける
パーパスが現場スタッフに浸透すれば、対応の一つひとつが変わります。ハンバーガー大学の教育も「売上のため」から「社会に貢献するため」に軸をシフトする必要があります。

 

4.社会との共創を組み込む
地域の学校やフードバンクと協働し、余剰食品を支援につなげるなど、社会課題解決と一体化した活動を行えば、顧客からの信頼も高まります。

 

5.評価軸を売上から社会的インパクトへ広げる
「子どもの食育への貢献」「食品廃棄削減量」「地域との協働件数」などを業績指標に組み込み、パーパスを持続的に評価することが欠かせません。

 

このようなプロセスを経ることで、パーパスは単なる理想ではなく、経営と現場の意思決定を動かす“羅針盤”となります。

 

真の価値は「Why」にある

 

マクドナルドのポケモン騒動は、短期的な売上を追った結果、社会の信頼を失うリスクを浮き彫りにしました。しかし、同時に「存在意義に基づく経営」への転換を促す契機ともなり得ます。

「なぜ我々は存在するのか」
「社会にどんな価値を提供するのか」

この問いに真摯に向き合い、日々の実践に落とし込むことこそ、変化の激しい時代を生き抜くための新たな羅針盤です。パーパスを軸にした経営は、社員の情熱を呼び覚まし、顧客に感動と信頼を届け、持続的な成果をもたらす基盤となるのです。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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