笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

商売の基本は「良い商品をつくり、売ること」と言われてきました。けれども現代の市場では、それだけでは差別化が難しくなっています。同じような品質や価格帯の商品があふれ、消費者から見れば「どこで買っても大差ない」と感じられてしまうのです。

 

そこで重要になるのが「顧客にとっての価値は何か」という問いです。ドラッカーが強調したのは、「顧客が買うのは製品そのものではなく、それを通じてもたらされる価値である」という視点でした。

 

たとえば、菓子を買う人が求めているのは「砂糖と小麦の塊」ではありません。そこには「ほっとする時間」「誰かに気持ちを伝える手段」「季節を感じる喜び」といった価値が隠れています。顧客が本当に欲しているのは商品そのものではなく、その先にある体験や感情なのです。

 

人気商品に見る伝統と革新の両立

 

京都に本店を構える老舗和菓子店「亀屋良長」は、創業200年以上の歴史を持ちながら、現代的な価値創造に挑戦しています。単に伝統を守るだけではなく、顧客が望む価値を掘り起こし、商品やサービスに反映していることが大きな特徴です。

 

たとえば「スライスようかん」という商品があります。ようかんを板チョコのように薄くスライスし、トーストにのせて楽しむ新しい食べ方を提案したものです。一見すると奇抜ですが、「忙しい現代人が手軽に和菓子の魅力を味わえるように」という発想から生まれました。従来のようにそのまま食べるのではなく、日常の朝食シーンに取り入れることで「和菓子をもっと身近に」という新しい価値を提供しているのです。

 

さらに、亀屋良長は商品だけでなく「体験」を重視しています。店内には「お菓子を選ぶ時間そのものを楽しんでもらう」ための工夫が随所に凝らされています。四季折々の意匠を凝らした和菓子が美しく並べられ、スタッフが季節や行事にまつわる物語を語りながら接客します。顧客は商品を買うだけでなく、「京都の四季を味わう体験」「文化を学ぶ体験」という価値を得て帰るのです。

 

こうした取り組みにより、亀屋良長は単なる和菓子の販売店にとどまらず、「京都の四季や文化を共有する場」へと進化していると言えます。

 

 

真のニーズをどう掘り起こすか

 

顧客の真のニーズは、表面的なアンケートやデータだけでは見えてきません。「甘いものが欲しい」という言葉の裏には、「自分へのご褒美が欲しい」「誰かに気持ちを伝えたい」「健康にも気を配りたい」といった複数の動機が潜んでいます。

 

亀屋良長が実践しているのは「顧客との対話を通じて、まだ言葉になっていない欲求を探り出すこと」です。たとえば「贈り物を探している」という顧客に対して、単に売れ筋を勧めるのではなく「どなたへの贈り物ですか」「どんなお気持ちを届けたいですか」と尋ねます。そこから導かれる答えは、「上司への感謝を表したい」「遠方の友人に京都の雰囲気を伝えたい」といった具体的な価値です。それに合わせて提案を行うことで、顧客は「自分の思いを理解してもらえた」という満足を得ることができます。

 

では、真のニーズをどのように価値として表現すればよいのでしょうか。

 

1.経験・体験を価値に転換する
価値は商品だけでなく、体験からも生まれます。亀屋良長では和菓子作り体験や季節ごとの展示を行っています。自分でつくった和菓子を味わう体験は、単なる「甘味」ではなく「思い出」という価値に変わります。体験を通じて顧客は商品に愛着を持ち、リピーターやファンへと育っていくのです。

 

2.接客・ディスプレイで価値を高める
接客やディスプレイも価値を大きく左右します。亀屋良長では商品の横に「この和菓子は◯月の行事にちなんでいます」といった物語を添えています。顧客はお菓子を買うだけでなく、「文化を持ち帰る体験」を得るのです。接客も「おすすめです」と一方的に伝えるのではなく、「この季節ならこちらはいかがでしょう」「こんな場面に合うと思います」と、顧客の文脈に沿って提案します。商品が顧客の生活や気持ちの中でどのように位置づけられるかを示すことが、価値を倍増させるのです。

 

顧客が欲するのはモノではない

 

「顧客にとっての価値は何か」という問いに真剣に向き合うことで、専門店は単なる商品提供の場を超えた存在となります。顧客が手にするのは「モノ」ではなく、「体験・感情・物語」なのです。

 

亀屋良長の事例はその好例です。和菓子という伝統的な商品を扱いながら、現代の生活に合った価値を再定義し、接客やディスプレイに落とし込んでいます。その結果、老舗でありながら新しいファンを獲得し続けているのです。

 

専門店経営において大切なのは、「私たちが売りたいもの」ではなく「顧客が望む価値」を問い続けることです。これは単なるマーケティング手法ではなく、商いの本質に立ち返る営みと言えるでしょう。

 

次回は「私たちの成果は何か」をテーマに、商いの目的をどのように測り、評価していくべきかを考えてみましょう。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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