笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

いま、ラーメン業界が大きく揺れています。

 

帝国データバンクの「全国ラーメン店市場動向調査(2024年度)」によれば、ラーメン市場の規模は7,900億円を突破し、10年前の1.6倍に成長しました。コロナ禍を乗り越え、外食回帰が進むなかで、全国のラーメン店が活況を呈しています。なかでも際立つのがチェーン店の拡大です。

 

 

2024年版のラーメンチェーン店舗数ランキングを見ると、1位の餃子の王将は700店舗を超え、リンガーハット、日高屋、幸楽苑、大阪王将、Sugakiya、未来亭、天下一品、丸源ラーメン、らあめん花月嵐など、上位10社だけで全国のラーメン店の大部分を占めるようになりました。FC展開の加速、無人券売機や効率的な厨房システム、そして知名度を武器に、チェーン各社は都市部から地方へと進出を進めています。

 

しかし、この成長の陰で、見えにくくなっている現実があります。それが、全国各地に根ざした中小個人経営のラーメン店の苦境です。

 

物価高騰に加え、電気・ガス代、人件費、そして原材料費の上昇。とくに国産小麦や豚骨、煮干しなど、良質な素材を扱う店ほど打撃は深刻です。帝国データバンクは、2024年におけるラーメン店の倒産件数が100件を超える可能性を指摘しています。これは過去最多水準であり、持ちこたえられなかった店が、静かに暖簾を下ろしているのです。

 

では、個人店に未来はないのでしょうか。否、それは違います。むしろ、今だからこそ光を放つ小さな名店があります。今回はその一つとして先日訪れた、青森県弘前市の「文ちゃんラーメン」を紹介します。

 

地元で愛され続ける名店

 

弘前市にある「文ちゃんラーメン」は、昭和60年創業。現在は二代目店主・成田智崇さんが味を守りながら、日々の営業を続けています。煮干しを中心とした出汁、低加水の自家製麺、そして透明感ある醤油スープ。その味は奇をてらわず、どこか懐かしさを感じさせながらも、一口ごとに力強く、食べ手の記憶に残る仕上がりとなっています。

 

 

驚くべきは、その客層の広さにあります。地元の常連客はもちろんのこと、観光で弘前を訪れた人々も、「この一杯のために弘前を訪れる」と言うほど。SNSでの評価も高く、全国のラーメンファンの間では“聖地”のような存在です。

 

文ちゃんラーメンの何が特別なのでしょうか。それは「味」だけではありません。接客のあたたかさ、清潔な厨房、妥協のない仕込み、そして“今日の一杯”に真剣に向き合う作り手の誠実さ。こうした姿勢が、一杯800円の中華そばに、単なる味覚以上の「価値」を与えているのです。

 

個人店が生き残るための5つの戦略

 

文ちゃんラーメンの事例から見えてくるのは、個人店だからこそ持ち得る強みと、具体的な打ち手です。以下に、中小ラーメン店が今こそ実践すべき5つの方策を整理します。

 

1. 唯一無二の「味」へのこだわり
チェーン店との最大の差別化は、やはり“味”にあります。自家製麺や地元食材の活用、ダシの取り方への工夫など、自分の店にしか出せない味を磨き続けること。文ちゃんのように、「昨日より今日のほうがうまい」と思わせる向上心が必要です。

 

2. 採算を超える“価値”提供
800円、900円、あるいは1,000円超。価格の壁を超えるには、その価格に見合う価値が必要です。素材を惜しまず、工程を省かず、誠実に仕上げた一杯には、金額以上の納得感があります。安売り競争から脱し、価格ではなく“信頼”で勝負することが鍵です。

 

3. 無駄のないオペレーションとコスト管理
原材料のロス、光熱費の管理、厨房導線の改善など、店の収益性を守るための見直しは欠かせません。文ちゃんラーメンのように、少人数でも的確に回る体制を築くことが、小規模店の安定経営につながります。

 

4. 情報発信と顧客接点の工夫
InstagramやX(旧Twitter)、食べログなどを活用して、商品の魅力や日々の姿勢を発信しましょう。文ちゃんもSNSで話題になり、遠方からの来客を呼び込んでいます。「地元密着+広域発信」の両輪を持つことで、持続可能なファンベースが築けます。

 

5. テクノロジーの導入で時間を創出
券売機や在庫管理アプリ、予約システムなど、必要に応じて省力化ツールを取り入れることも一手です。時間的余裕を生むことで、店主はより味づくりや接客に集中できるようになります。

 

商人の心を忘れずに

 

時代は大きく変化しています。ラーメン業界も例外ではありません。しかし、大切なのは「変わらない信念」と「変わり続ける努力」の両立です。

 

文ちゃんラーメンのように、地に足をつけ、誠実に一杯を積み重ねる姿勢は、何よりも強いブランド力となります。中小個人店には、機動力、柔軟性、地域とのつながりという大手にはない魅力があります。いまこそ、自らの店の“核”を見直し、「選ばれる店」をつくるときです。

 

そんな商いは、小さくとも偉大な営みです。あなたの店にしかない味と心で、どうかこれからも地域を照らし続けてください。その一杯に込められた想いが、きっと多くの人の記憶と、人生に残るものとなるのです。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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