「人間というのは、頭で考えたとおりには動かない。体で覚えたことしか、ほんとうにはできない」
『バカの壁』の著者であり、医学者・解剖学者の養老孟司さんのこの言葉に共感をおぼえる人は少なくないでしょう。私もその一人です。この一文が載る『解剖学教室へようこそ』は、解剖学の本でありながら、「学ぶとは何か」「働くとは何か」という問いに静かに向き合わせてくれる一冊です。
本書は、医学生が初めて遺体と向き合う「解剖実習」の現場から始まります。そこでは、命の重みや学びの厳粛さとともに、人間の不思議さや矛盾が立ち現れてきます。
「死体は、語らない。だが、沈黙の中で語っている」
仕事の現場もまた、理屈では動きません。会議室で決めたとおりには進まないし、接客もロールプレイングのように運ぶためしはありません。実際に手を動かし、目で見て、肌で感じてこそ、本質が見えてくる——本書は、そんな「現場知」の価値を私たちに教えてくれます。
著者は、「理屈より手が先に動くのが命を扱う仕事だ」と語りますが、これは医療に限りません。ビジネスの世界も同じです。現場の声に耳を澄まし、身体ごと仕事に向き合わなければ、人は本当には動けません。
「死んでなお人を教育する。それが献体という行為である」
人は他者から学び、経験を受け継ぐことで育ちます。それは、ビジネスにおいても同じです。部下を育てることも、顧客の声に学ぶことも、すべては「誰かの人生」を真摯に受け取る姿勢から始まります。
本書は、知識を超えた「知恵」に出会える一冊。思考が行き詰まったとき、働く意味を見失いかけたとき、この本を開けば、静かに自分の原点を思い出せるはずです。







