2025年7月22日、厚生労働省の中央最低賃金審議会において、今年度の最低賃金改定をめぐる議論が本格化しました。その背景には、今や全国で700万人が最低賃金水準で働いているという、現実の重みがあります。特に中小・零細企業では、5人に1人以上が最低賃金近傍の時給で働くとされており、この10年でその割合は3倍以上に増えています。
こうした急速な最低賃金の引き上げは、「暮らしを守る」ためには必要である一方で、「企業の支払い能力」との間に深刻なねじれを生んでいます。まさにその板挟みの中にいるのが、私たち地域の中小企業者なのです。

最低賃金が映し出す二つの日本
今回の報道から見えてくるのは、日本経済に存在する二つの構造的格差です。
1.暮らしの厳しさと、賃金上昇の遅れ
コメは前年の2倍、食品全体で7.2%上昇。最低賃金近くで働く労働者の32%が「暮らしは苦しくなった」と答えています。一方、2020年代に平均時給1500円という政府目標を達成するには、毎年7.3%の引き上げが必要。生活と制度の間に、埋めがたいギャップがあるのです。
2.支払い能力の限界
労働分配率を見ると、大企業は36.8%にとどまる一方で、中小企業は70.2%と、売上の多くを人件費に充てています。また、価格転嫁率も52.4%と、仕入れコストの上昇を販売価格に反映できていない現実があります。努力しても報われにくい構造が、中小企業を締め付けています。
それでも商いは「人」がすべてです。この厳しい状況の中で、私たち中小事業者が忘れてはならないのは、商業経営指導者、倉本長治のこの言葉です。
「店は客のためにあり、店員とともに栄える」
価格競争ではなく、価値競争へ。コスト削減ではなく、信頼創造へ。従業員は「コスト」ではなく、「ともに栄えるパートナー」。この哲学こそが、商いが困難な時代を乗り越える原動力になるのではないでしょうか。
中小企業がなすべき三つの行動
この局面で、中小・零細企業経営者が取るべき具体的な行動は、次の三つです。
1.安売りから脱却し、選ばれる理由をつくる
最低賃金上昇分を補うには、価格に頼るのではなく価値に磨きをかけるしかありません。商品だけでなく、接客、体験、理念──“買いたくなる理由”を言語化し、可視化することです。
2.従業員とともに育ち、ともに栄える組織をつくる
「最低賃金だから、この程度の働きでいい」と考えるのではなく、「この時給でも誇りを持って働ける環境」をつくる。そのためには、対話と承認、成長機会の提供が不可欠です。
3.価格転嫁をためらわず、取引関係を再定義する
「上げられない」ではなく、「なぜ上げるのか」を説明する力が求められます。原材料の高騰、最低賃金の上昇は全業種共通の課題です。取引先とも生活者とも、誠実な交渉と情報発信を心がけましょう。
商いとは、誰かの幸せを願い続けること
いま、最低賃金の引き上げをめぐる議論は数字以上に深く、私たちに問いを投げかけています。
「あなたの店は、誰のためにあるのか?」
「その商いで、誰とともに栄えようとしているのか?」
この問いに、真正面から向き合うときが来ています。“商い”とは、「暮らしを支え、人生を豊かにする行為」です。だからこそ、「安さ」だけではなく、「意味ある選択肢」としての存在価値を高めねばなりません。そして何より、忘れてはならないのは、私たちの商いがお客様のためにあり、店員とともに栄えるものだということ。
困難な時代だからこそ、この原点に立ち返りましょう。真に「栄える商い」とは、価格にではなく、人に寄り添う商いなのです。







